米国は大統領選挙で人種問題を克服するか
田久保 忠衛
杏林大学客員教授・政策研究フォーラム副理事長
面白おかしく白人対黒人の対決などという軽率な表現を米国人はまず使わないだろう。人種差別はいけないとの道徳基準を設け、
過去に存在した「差別」をなくそうと懸命に努力してきたのもまた米国だからである。
米大統領選挙は民主党のオバマ氏と共和党のマケイン氏との一騎打ちになってきたが、最後まで残るのは人種問題だと思う。
大統領選挙キャンペーンの中でもすでにこの問題は鋭い形で一般市民の胸に突きつけられている。
シカゴ・トリニティ合同キリスト教会のジェラマイア・ライト牧師は黒人の立場で、「米政府は黒人虐殺のためにエイズ菌を開発した」とか
「9・11テロは米外交が犯した罪へのバチだ」との発言を何度も行っている。白人がどのような気分になるかは言うまでもあるまい。
オバマ氏が自身の結婚や二人の娘の洗礼をこの牧師のもとにしたとなると逃げていく白人票が出るのはやむを得ない。
だから、オバマ氏は急拠この教会との縁を切った。同氏と争ったクリントン氏はケンタッキー、インディアナ、ペンシルベニア、オハイオ州などで勝ったが、
原因はオバマ嫌いの白人労働者が主となってクリントン候補に投票したからだ。
クリントン氏に投票した者の中でマケイン対オバマの対決になったら、いずれに投票するかの出口調査では十人に二人はマケインと答えている。
日米戦争が日本の侵略主義によって惹き起されたなどという東京裁判判決を信じ込む向きはかなり少なくなったと思う。
昭和天皇は「日米戦争の遠因は移民問題にあった」と御自分の「独白録」で述べられた。
東京裁判では唯一の国際法の大家だったインドのパル判事は英王立国際問題研究所が毎年出していた「国際情勢概観」一九二四年度版を引用し、
日本人移民排除の問題は「経済の摩擦でもなければ移民数が多すぎたためでもない。これは誇りを持った国同士の文明の衝突だ」と述べた。
日本人移民が黄色人種だからとの理由で排除されたのであれば日本としては黙っていられないのは当然だ、とこの英国の権威ある研究所は当時堂々と述べていた。
百年経った現在米国では人種差別が完全に消えて黒人大統領が誕生するのだろうか。
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