日本より中国を重要な柱と見始めた米国
田久保 忠衛
杏林大学客員教授・政策研究フォーラム副理事長
一月十三日付インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に載ったキッシンジャー米元国務長官の「大洪水のあと」と題する一文を読んで改めて愕然とした。
これから生れるべき新しい国際秩序の中で日本は落伍者扱いをされている。
新しいオバマ政権とは無関係の立場の人だが、キッシンジャー氏は米政府当局者の本音を漏らしたと解釈できるからだ。
文章の主題は、米国の金融危機が世界に及ぼした衝撃のあとに新しい国際秩序が形成され、その原動力になるのが、
新鮮なイメージを持って経済と政治のルールをつくり出すオバマ政権だということに尽きる。が、
そこで重要なのは米国と中国という二つの柱だとキッシンジャー氏は明言する。
本質的には「共通の敵を封じ込めるという戦略的な狙いに基づいて開始された(米中)関係は過去数十年間のうちに国際秩序の柱となるまで発展した」との表現は何を意味するか。
ニクソン大統領が歴史的な訪中をしたのは一九七二年、クリントン大統領は七九年に中国との国交を樹立した。
九一年にソ連が崩壊するまでの間、米中共通の敵は明らかに旧ソ連だった。が、以後の「共通の敵」とはどこの国か。
中国が米国にとって脅威でなく、協力者の関係に入れば、日本の「台頭」を目の敵にしてくる可能性は少なくない。
現にキッシンジャー氏は中国が米国の国債を大量に買い、代わりに米国は市場を開放して中国の大国化を助ける相互依存関係にあると述べ、
国際金融危機でこの関係を壊さないことが肝心だと説いているのである。
戦後の日本は経済面以外、とくに軍事面の国際協力は極度に嫌ってきた。
ところが、中国はいまその面に積極的に乗出そうとしている。世界で活躍している中国のPKO(国連平和維持部隊)は日本と比べものにならない。
ソマリア沖の海賊対策には米国、欧州連盟(EU)、ロシア、インドに加え、昨年暮から中国海軍の巡洋艦二隻と補給艦一隻が参加した。
慌てた日本も参加を考えているが、政治の半身不随も手伝ってまだ実現に至っていない。
戦後体制が国際社会の変化に対応できなくなり、国際社会から放り出される時期が近づいているのに気付かない。
敗戦の脳震盪から立ち上がれない「失われた六十三年」の結末だ。
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