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月刊誌「改革者」2009年9月号
「改革者」2009年9月号 目次
 

羅 針 盤(9月号)
                  外交・防衛・教育論争なかった総選挙

                          田久保 忠衛
               杏林大学客員教授・政策研究フォーラム副理事長


 戦争中の大本営参謀、関東軍参謀、戦後は伊藤忠商事の会長、 総理府の臨時行政改革審議会会長代理を務めた瀬島龍三氏からときどき教えられた「判断大局、着手小局」という言葉をこのごろ思い出す機会が多い。 今回の総選挙で欠けていたのは、国家が直面する基本問題である外交・防衛・教育が全くと言っていいほど論争にならなかった事実である。 国際情勢がどう動こうが、自分だけ選挙に勝てばいいとばかり振舞っていた政治家を信用していいかどうか。 キッシンジャー元米国務長官がつとに指摘しているとおり、いまの国際情勢には三つの大きな特徴がある。 一つは、欧州にEU(欧州連合)という二十七カ国の主権国家からなる経済共同体が出現した。政治統合に進んでいくかどうか軽々しい見通しは控えるが、 主権国家の性格が薄くなったことは事実だろう。 二つは、イスラム原理主義を唱える過激派が主権国家に対して武力による挑戦を試み、米国を中心とする国々がテロとの戦いを続けているところだ。 三つは主権国家同士が演ずる国際政治の場が欧州からアジアに移ったことだ。キッシンジャー氏は、 「大西洋の時代」から「太平洋およびインド洋」の時代に国際政治の中心が移った、と鋭い指摘をしている。 「太平洋およびインド洋」で今世紀中に主要なプレーヤーになるのは、中国・インド・日本・インドネシア(多分)の四カ国だと同氏は述べているが、 米国も太平洋国家であることを忘れてもらっては困る、と同氏は言う。とりわけ、米国と中国がどのような関係になるかによって、 ほかの国の運命も変化するというのだ。 米中両国の接近はブッシュ前政権からオバマ政権にかけて著しく進展している。 去る七月二十七、二十八の両日ワシントンで開かれた米中初の戦略・経済対話は、実質的合意はなかったものの、 米中両国で国際問題は取り仕切りますよ、と言わんばかりだった。 ブレジンスキー元米大統領補佐官は一月に訪中した際、「かつて米中はソ連という共通の敵を持っていたが、 これからの共通の敵は世界の不安定や紛争だ」と演説した。これに関心がなければ、日本は沈んでいくしかない。
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