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月刊誌「改革者」2010年3月号
「改革者」2010年3月号 目次
 

羅 針 盤(3月号)
                決断力は政治指導者の必須条件

                          田久保 忠衛
              杏林大学客員教授・政策研究フォーラム副理事長


 政治指導者の条件に清廉潔白、私心のなさ、出所進退の鮮やかなことなどを挙げる向きは少なくない。 そのような資質があるにこしたことはないが、トラやオオカミや大蛇がひしめている国際社会で、 聖人君子のような日本の倫理観だけに縛られた人物が最高指導者になっていいか大いに疑問がある。 そこで、私が一つだけ条件を示せと要求されたら、「決断力」だと答える。 リチャード・ニクソン元米大統領といえば、日本でははなはだ評判が悪い。 ウォーターゲートホテルにあった民主党の選挙事務所に忍び込んだ部下をかばうつもりが、ウソをつく結果となり、 部下の裏切りにも遭って大統領の任期中に引退せざるを得なくなった。 彼は若くして下院議員、上院議員、副大統領を経て大統領選に臨み、ケネディ大統領に僅差で破れる。 さらにカリフォルニア州知事選に敗北を喫したあと再度大統領選に挑み、ホワイトハウス入りを果たす。 が、ウォーターゲート事件で失脚した。と思ったら、レーガン政権で外交問題の助言者として活躍した。 劇的な人生を経験したニクソンでなければ書けない名著に『指導者とは』(邦訳・文藝春秋社)がある。 彼が感動をもって述べているのはドゴールが直接語った「神との間に直通電話を持っていると信じ、 決断するときには受話器を取り上げて神の声を聞くのだ」の言葉だ。 ニクソンは「自己の意志を歴史に刻もうとする指導者とても、正しいとき、間違うときがあるが、遅疑することだけは絶対にあり得ない。 常に自分の本能に耳を傾ける。他人の意見は求めるが、判断は必ず自分が下す」と明言している。 ここで取り上げられている世界の指導者はチャーチル、ドゴール、マッカーサー、吉田茂、アデナウァー、フルシチョフ、スカルノ、ネール、ペン・グリオン、ナセル、サダトらだ。 いずれも国家が危機に直面した際には明快な判断を下し、国を救うための燃えるような使命感を内に秘めて実行している。 自民党とか民主党といった政党はどうでもいい。戦後の日本の指導者で世界の水準に達しているのは誰か。いない。 決断を本能的に先に伸ばし、恥を恥と思わぬ政治家は全く論外だと思う。
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