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月刊誌「改革者」2010年6月号
「改革者」2010年6月号 目次
 

羅 針 盤(6月号)
              「中国の脅威」より普天間が重大?

                          田久保 忠衛
              杏林大学名誉教授・政策研究フォーラム副理事長


  去る四月十二日に鳩山由紀夫首相はワシントンで開かれた核サミットの際の夕食会でオバマ米大統領の隣席に座り僅か十分ではあったが話をした。 この前後に日本の新聞、テレビ、ラジオなどのマスメディアは沖縄の米海兵隊飛行場の移設問題で大騒ぎを演じた。 ニュースの派手な扱いはいまなお続いている。 首相がワシントンを訪問している時期に十日余にわたり、中国の艦艇十隻が沖縄本島と宮古島の間を往復した。 日本の最南端に位置する沖ノ鳥島周辺で所定の演習をしたらしい。 この間中国側は別々の日に二回にわたって艦載ヘリを日本の海上自衛隊護衛艦に向かって水平距離九〇メートルまで接近させたという。 五月に入って奄美大島北西沖の日本の排他的経済水域(EEZ)で海上保安庁の測量船が中国海洋局の調査船によって二時間余にわたり追い回された。 何かが狂っていないか。このニュースの扱いは普天間に比べてまことに地味だった。日本のマスメディアのニュース判断を私は糾弾したい。普天間基地は何のために存在してきたのか。 朝鮮半島と台湾海峡有事の際に戦略上絶好の位置にあり、 ユーラシア大陸で急速に軍事大国から経済大国にのし上がった中国の潜在的脅威に対する抑止力そのものが在沖米軍ではないか。 『フォーリン・アフェアーズ』誌二〇一〇年五〜六月号にジャーナリストのロバート・D・カプラン氏が「大国中国の地政」と題する大論文を書いている。中国は何も侵略の意図を持っているわけではないが、一三億人の人口の生活水準を引き上げなければならない。これに失敗すれば共産党の一党独裁はどうなるかわからない。そのためには、エネルギー、金属、鉱産物などの原料を求めて国境の東西南北に死に物狂いで進出しなければならない。 国内的にはチベットと新疆ウイグルを弾圧し、ロシア極東地域への中国人移民でトラブルを起こす。 インド洋のシーレーン確保のためミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンなどの港湾建設を手掛ける。 その文脈で東シナ海や南シナ海から太平洋にしゃしゃり出てきた。 こういうカプラン論文の指摘が理解できず、普天間で夜も日も明けない国の病は深刻だ。
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