難問山積の新政権離陸
堀江 湛
慶應義塾大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長
民主党の代表選は菅首相の勝利に終わり菅・改造内閣が発足した。
国会議員連絡会からは柳田稔、高木義明のお二人がそれぞれ法務・拉致問題担当大臣、文科大臣という重要ポストで入閣された。
議院内閣制の下、閣僚として所管行政領域を統括し、国民の自由と生命、財産を守る国民主権の原理に立ち、
国民代表としての大任を果たされたい。
選挙戦の結果はともかく、選挙前の菅首相と小沢前幹事長の立会い演説会は率直にいって中身では小沢前幹事長に軍配が上がる。
菅首相の構想は雇用拡大を最優先し、財政再建とあわせて環境エネルギー、医療介護、観光等七領域についての新成長戦略を展開したいというものだが、中身はこれからだ。
学生、専業主婦、お年寄りや組織の末端で働く若者には受けたろうが、第一線で経営の一端を担っている層以上は鼻白んでしまう。
首相の変わり身は早い。組閣早々小沢氏が指摘していた為替介入に踏み切った。これはという政策はどんどん取り入れなければこれからの難局はとても乗り切れまい。
付き合う閣僚も大変だ。
小沢前幹事長の主張は不況脱出が現下の最大の課題とする。二兆円の予備費を財源に直ちに財政出動を進め、補正予算の編成に入る。
急激な円高には為替介入も辞さないが、穏やかな円高の進行は内需拡大と資源等を対象の資本の海外進出の契機となる。予算組み換えが前提だが、
地方の疲弊に対応し農業に加え、漁業にも戸別価格補助金制度を導入、各省庁の地方交付金は一括交付金として自治体に委譲、
各自治体の判断で必要なら高速道路建設も認める。子供手当ての一二年度満額保障、最低保障年金七万円も実現するという。
新内閣の政策課題は難問山積だ。沖縄基地問題の交渉が進めば米兵犯罪処理の行政協定改定問題は避けて通れない。
わが国の裁判制度では起訴前起訴後の勾留期間が非常に長く、弁護士の同席助言のできない苛酷な取調べで作成された調書に従って裁判が進められる。
起訴後の有罪率九九%はこうして生まれる。国連人権委員会の厳しい勧告がされ「取調べ可視化法案」、
「裁判員制度」もその回答のひとつだ。村木元厚労省局長事件が典型例だ。
子供手当がばら撒きだと集中砲火を浴びている。待機児童ゼロが先だとの声が強い。待機児童の存在自体あってはならぬことだ。
しかし同時に教育は学校だけで完結するものではない。スポーツ、文化、様々な社会奉仕等を通じてはじめて個性豊かな次代の国民が育つ。
学習から帰った鍵っ子を迎える家にテレビの外一冊の本もないでは困る。子供は学校だけでなく社会全体で育てる時代に入ったのだ。
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