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月刊誌「改革者」2010年11月号
「改革者」2010年11月号 目次
 

羅 針 盤(11月号)
                   外交のマジックに騙されダウン

                          田久保 忠衛
              杏林大学名誉教授・政策研究フォーラム副理事長


  外交のテクニックで言うと、先手を取った方が勝ち、取られた方が敗けだ。 尖閣漁船衝突事件は、中国が漁船監視船(武装している)を派遣すると発表し、丹羽中国大使が中国外務省に五回も呼び出しを受け、 東シナ海のガス田交渉の延期を通告され、「白樺」に機材を搬入された。菅直人政権はこれでフラフラになった。 中国漁船と船長を除く船員を帰したあと船長の枸留延長を決めた途端に今度はボディーブローだ。 温家宝首相はニューヨークで、船長の即時無条件釈放を要求し、対抗措置を取る、その結果についての責任は日本が負え、 と恫喝した。フジタの社員四名が軍事地区に入ったとの名目で逮捕され、レアアースの輸出は禁止された。 完全にノックアウトになった首相は、船長を釈放してしまった。 問題の本質は外交のマジックだ。本来は、先方が日本の領海を侵犯したのだから、 東京にいる駐日大使を何回でも外務省に呼びつけて抗議をしなければならない。 東シナ海のガス田交渉を長引かせていたのは中国だから、再開をこちらから要求しなければならない。 それが再開してくださいとお願いする立場になってしまった。どうぞ、レアアースは解禁してください、 保釈金を支払いますからフジタの四人は釈放してください、のお願いの連続になった。 北沢俊美防衛相は十月十二日にハノイで中国の梁光烈国防相と会った際に、何を恐れたのか、 尖閣とその周辺水域が日本固有の領土・領海であるとの主張を行なわなかった。 それどころか予定されていた自衛隊練習艦隊の派遣や新たな国防相会議を提案して、「時期ではない」と断られている。 冷戦期の七〇年代の後半にソ連は中距離ミサイルSS20を欧州部、次いで極東部に次々と展開した。 この威力を前に外交的敗北を喫すると見て取った西ドイツの社民党(SPD)党首のシュミット首相は米国から巡航ミサイルとパーシングUの導入を決め、 これをNATOが採用した。ソ連と同様の戦闘能力をつけたうえでSS20をゼロにする二路線方式は実施され、成功した。 世界に冠たる指導者としてシュミットは歴史に名を残した。
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