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月刊誌「改革者」2011年7月号
「改革者」2011年7月号 目次
 

羅 針 盤(7月号)
                   中東から中国へ「歴史のはじまり」

                             田久保 忠衛
                           杏林大学名誉教授


  民主社会主義研究会議議長を務められた関嘉彦先生の『私と民主社会主義』と題するご著書に登場する挿話だ。 昭和三十二年(一九五七年)にある出版社から高等学校の社会科の教科書を書いてほしいと依頼され、 猪木正道(京都大学教授)氏が担当の政治の部で戦後の冷戦構造を「民主主義対共産主義の対立」と表現した。 ところが、文部省の検定官によって「資本主義対社会主義」にせよと修正意見が付けられたという。 他の教科書はすべて文部省のとおりの記述になっている中で、関先生は英紙などの資料により検定官を説き伏せたものの、採用は惨憺たる結果となったそうだ。 教科書採択の現場を見ると、五四年経ったいまも、日本全体に漂う 左翼的ムードは変わらない。 それは別として、冷戦は資本主義=悪、社会主義=善の対立や戦いではなく、「民主主義対全体主義」の対立だったことは誰の目にも明らかになった。 ソ連が崩壊する二年前の八九年にフランシス・フクヤマ氏は、欧米のイデオロギーである自由主義・民主主義が歴史的に勝利を収め、 普遍的な価値観になったと断ずる論文を書いた。 世界的大ベストセラーになった『歴史の終焉』の土台となる文章だ。 その後フクヤマ氏は自説の一部軌道修正を行なったが、本質は衝いていたと思う。 冷戦後、現在に至る十年間に世界の人々の関心を集めているのは「米国衰退論」と「中国の台頭」だ。 心のどこかに「資本主義対社会主義対立」の構図を引きずって いる人々は米国の衰退に期待をかけるだろう。 が、十九世紀末にスペインを破って世界の大国に踊り出た米国は一世紀以上にわたって「大国」を続けている。 簡単に凋落するとは思わない。 中国には大津波が押し寄せつつある。昨年十二月にチュニジアに始まった「中東民主化革命」の規模と根の深さはただごとではない。 中東に民主主義は育たないなどと「差別発言」をしてきた論者 は、これら諸国に生れている知識階級とインターネットによるコミュニケーション革命を無視している。 反体制派が一掃されたはずの内モンゴル自治区における学生デモは一党独裁体制を突き動かす前触れではないか。 イデオロギーの歴史はこれから始まるかもしれない。
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