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月刊誌「改革者」2011年9月号
「改革者」2011年9月号 目次
 

羅 針 盤(9月号)
                 英国の暴動が示唆するもの

                             谷藤 悦史
                早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長


  英国で若者の暴動がおさまらない。ロンドンのみならず、バーミンガム、リバプールなど、地方都市にも拡大している。 キャメロン首相は休暇を中断してイタリアから帰国、議会を臨時招集して、ロンドンにおける警察官の増員や軍の協力を仰ぐことも示唆して、 暴動を抑える強硬姿勢を鮮明に打ち出した。暴動の逮捕者は、英国全土で一五〇〇人を突破、暴動による損害額は、二五〇億円を超えるという。 事態を報じるニュースに接して、既視感にとらわれた。八〇年代にサッチャー政権は、英国の復活をめざして自由主義路線を展開、減税と規制緩和、 民営化と小さな政府を進める一方、雇用を無視し、マイノリティーとの対話を排除した。 マイノリティーや若者の反発を生み暴動やテロが相次ぎ、サッチャー政権は「法と秩序」を言い続けた。 キャメロン政権の状況もそれに酷似している。 事件の発端は、ロンドン北部のトットナムで、黒人男性に対する警察官の射殺事件であるとされているが、暴動が広がったのは、 「怒れる若者」たちを生む底流が社会にあったからである。 他のEU諸国同様に、英国の経済状況はかんばしくない。 二〇一〇年五月に発足したキャメロン連立政権は、危機的な状況にある財政の再建を最優先とし、 歳出削減を実行して社会保障に関わる予算を大幅に削減する一方、二〇%に及ぶ消費税率の改定を進めた。 新自由主義の再来である。教育費の削減は大学授業料の大幅増となり、今年に入って学生のデモが各地にも及び、若者の不満は高まっていた。 失業率も拡大し七%近くになり、一八歳から二四歳のそれは二〇%近くにも達し、移民層のマイノリティーではさらに拡大する。若者の不満が、 マイノリティーの不満と結びついて拡大したのである。低迷する経済で、ヨーロッパ全体に排他主義の世論が広がっているが、それが英国にも及んでいる。 新自由主義への安易な回帰と新たな政策手段を持たないキャメロン政治が、暴動の原因である。わが国も、対岸の火事と決め込んで、傍観することはできない。 閉塞状況にあるわが国の政治が、「怒れる若者」を生むとも限らない。震災後の復興の政治を推し進めるとともに 、新自由主義以後を展望する骨太の政策開発が求められるのである。
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