TPP論議で見えてきたもの―アジアと日米中
加藤秀治郎
東洋大学法学部教授、政策研究フォーラム副理事長
ぎりぎりのタイミングで野田首相はTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉参加を打ち出した。
国内ではいつもの騒動が展開されたが、そこで二つのことを感じた。
一つは単純なことで、議論が扇動的なことだ。
テレビに登場する専門家の発言だが、問題を冷静に論じるより、過激な発言をして、注目を集めようとの印象がある。
この二十数年来の「テレビ政治」だが、近年は一段と酷くなり、原発問題も国際経済もそうだ。
元官僚やら評論家・学者が登場し、自信たっぷりに語るが、それが一八〇度違うのだから、門外漢は戸惑うだけだ。
経済学者の同僚が「ちょっと酷い」と感慨を漏らしていたが、政治問題ではかなり以前からだ。著書も「緊急出版」され、本人もメジャーとなる。
テレビ局が手間暇かけて厳しく人選しているのならまだ良いが、そうではないのだから困ってしまう。
とりあえず実情を読者に知らせ、注意を喚起しておく。
第二は、経済と政治の関連だ。TPPは主として経済問題であり、多くはその文脈で語られた。そうでない場合も、
普天間で鳩山内閣が「借り」をつくったから、TPPには参加せざるをえなくなった、などとの低級な「政治講釈」がなされただけだ。
だが、もっと巨視的な文脈が重要であり、それは図らずも直後の十一日のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の閣僚会議で明らかになった。
共同記者会見で中国がTPPへの日本の参加に警戒心を示し、日本がTPPに傾斜しないようクギをさしたのだ。
このような構図につき、長島昭久首相補佐官が先にこう発言している。「TPPのミソは、アジアを米中で仕切らせないこと。
逆に言うと、アジア太平洋の秩序は日本と米国でつくっていく積極的な視点が必要」というのだ。何も付け加える必要のない立派な解説だ。
近年のアジアの構図は、米中のバランスに日本がどう関与するかが焦点となっており、経済・通商問題とはいえ国際政治がらみの問題との性質を色濃くしている。
何もしなければ米中の「談合」でことが運ばれていく。
「東アジア共同体」などと語っていると、それこそ中国に傾斜する。日米優先なら自ずと選択の幅が決まってくるのだ。国内事情ばかりでTPPを語ってはいられない。
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