消費税は論争で選択肢を明確に
加藤秀治郎
東洋大学法学部教授、政策研究フォーラム副理事長
次第に消費税の増税が対立争点となってきた。
だが動きは活発なものの、真の争点は見えない。その意味で、旧来からの日本政治の悪い特徴が出ており、気がかりだ。
問題の所在を明確にするため、迂回的だが故ウォルター・リップマンの議論にふれておく。
「二十世紀最大のジャーナリスト」とも言われるリップマンだが、「学者のように思考する」とも評され、
その著作は学界にも大きな影響を及ぼしている。
代表作は『世論』『幻の公衆』『公共の哲学』の三部作だが、今日の日本では『世論』こそ文庫本で広く読まれているものの、
他の二冊は生硬な翻訳や、絶版のため、ほとんど読まれていない。だがその二冊で彼は現代民主制を作動させる現実的理論を提起している。
単に「主権者たる国民による政治」を言うだけでは、現代民主制は実現せず、カギとなるのは、国民=公衆がうまく選択できるよう、
指導者とマスコミが選択肢を提示できるかどうかだ、とした。
国民には政治的判断能力がないとする悲観論でもなければ、あるがままの国民を「公衆」と美化し、過大評価する楽観論でもない。
現実的な実現可能性に徹した理論であり、傾聴すべき内容を含んでいる。
特に『幻の公衆』が主張を明快に展開しているが、政治指導者とマスコミが論争を通じて、争点の本質を浮び上らせ、国民が上手に選択できるようにせよ、
というのが要点だ。彼は選挙を重視しているのだが、今の日本では選挙と選挙の間での世論調査も影響を及ぼす。
このような観点からは、現在の消費税論争は最悪である。
政治家は論点をぼかし、マスコミは複雑な問題をうまく整理して選択肢を提示できないでいる。
増税派には不都合なデータを隠している、との疑念が広く持たれている。
反対派も多くは、単純な反対論ではなく、一定の条件が満たされる時期なら認める、との立場だが、その条件を語らない。
これでは、まともに考えようという国民も困惑するだけである。
そろそろ悪しきパターンを断ち切り、自覚的に選択肢の提示に向ってもらいたいものだ。
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