民主主義の危機を露呈する選挙年
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
二〇一二年は、選挙年である。ロシア、フランスと大統領選挙が行われ、やがてアメリカとなる。
選挙を前にして、大きな失点をしないために、政治的試みは慎重になってしまう。
新しい試みは抑制され、守りの政治が主流となる。こうして世界の政治は、日本を含め停滞する。
ロシアの政治も、フランスの政治も、今年の後半から進むことになろうが、アメリカの政治は、来年になって本格化するであろう。
ロシアとフランスの大統領選挙を見て、民主主義の危機をあらためて思う。
ロシアのプーチンは、六三%の票を獲得して再び大統領の地位についた。民主主義の根幹である選挙で、不正が行われたという噂が絶えない。
大統領と首相職を含めて、プーチン支配は、一二年間に及び、それに新たに六年が加わる。
かつてわが国でも言われたように、政権交代がなく、しかも一人の政治家が一八年間にわたって権力を掌握することは、成熟した民主主義国のあり方なのか。
固定した政治権力に利権が絡み、政治腐敗が拡大する。
一見すると自由が拡大しているように見えるが、メディアの巧みな管理で、ソフトで静かな言論の抑圧が広がる。
新興民主主義国の政治的成熟の限界が露呈している選挙であった。
他方で、フランス大統領選挙。広く指摘されている「民主主義の赤字」を典型的に示すような内容であった。
四月の選挙では、いずれの候補者も三〇%を超える票を獲得できなかった。
第一位となった社会党F・オランド候補は二八・六%、現職大統領のN・サルコジは二七・一%で第二位となった。
その他の候補者は、一〇%台やそれ以下であった。オランド候補とサルコジ候補が、選挙法の規定に従って、第二回の選挙に向かう。
決選投票の内実は、貧困である。国民は、全選挙民の三割にも満たない支持しか得られない候補者の間で、選択を迫られているからである。
最終結果は、八一・一四%の投票率でオランドが五一・六七%、選挙民全体の四割程度の支持で当選した。
フランスばかりでなく、古い民主主義諸国に広くみられる現象である。
アメリカ、イギリス、そしてわが国においても、選挙民の過半数を超える支持を得るような政権が誕生しない。
選挙制度が作り出す「歪み」によって、過半数が作り出されるのが実態である。民主主義は、少数決民主主義となっている。
結果的に、政権は脆弱となり、ますます揺れる。
膨大な選挙民を党員に抱えた大衆政党の時代は終わった。
しかし、民主主義諸国は、それに変わる新たな政党政治のモデルを開発できないでいる。それが、「民主主義の赤字」を一層拡大しているようにも見える。
創造的革新が必要であろう。
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