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月刊誌「改革者」2012年12月号
「改革者」2012年12月号 目次
 

羅 針 盤(12月号)
                   猪木正道教授の遺志を継ごう

                              加藤 秀治郎
                  ● 東洋大学法学部教授、政策研究フォーラム副理事長


  十一月五日、猪木正道・京大名誉教授が九十八歳で逝去された。 東大経済学部の河合栄治郎の門下であり、先に亡くなった関嘉彦、土屋清氏らと共に社会思想研究会を組織して、戦後日本に貴重な一大精神的支柱を形成した。 その功績は不朽のものである。 河合の骨太の自由主義を継承し、民主主義に立脚する社会主義を説いて、西欧流の民主社会主義の思想潮流を戦後日本に形成したのだ。 共産主義に甘い、ムード的な「革新」思想に果敢に論争を挑む論客でもあった。 私自身も、受験予備校の近くの本屋で猪木氏らの本に接したことが、自分の思想形成と政治学の出発点となったのだから、甚大な影響を受けている。 猪木氏が及ぼした最大の影響と言えば、戦後日本の国際政治論を現実化させたことであろう。 どこまで本気だったか疑われるが、多くの知識人が「非武装」や、米ソの間での「中立」を口にしていた時、猪木氏は敢然とその非現実性を説き、 日米同盟と自衛隊を肯定する論理を提供した。 右翼にも左翼にも厳しく立ち向かったが、国際政治では、米ソの「中間」というような路線は成り立たないとの議論を説得的に展開した。 後には防衛大学校校長となり、憲法についても改正の必要を説いた。 それを「保守への転向」や「裏切り」のように言う者もあったが、それこそ変則的な戦後の国際認識のためであった。 猪木氏は師の河合栄治郎を継ぐ戦闘精神で、屈することなく正論を説いた。 高坂正堯氏ら、多くの弟子を育て、その国際政治論を日本に定着させた功労もまた忘れられてはならない。 おりしも民主党は、次期総選挙に向けた政策文書の作成を進めており、「中道」がキーワードになりそうだと報じられている。 しかし大事なのは、その中身であり、外交・防衛の領域で、右の「自民党」と左の「共産・社民」の「中間」を目指すような、破産した理念であってはならない。 猪木氏が説いて止まなかったように、外交・防衛で左右が分かれると考えるのは、錯覚でしかない。 それとは別の経済・社会政策の領域で、堂々たる「中道」が主張されるのを望みたいものだ。
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