不決断が続く安倍政治
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
九月上旬、安倍首相は二〇一四年四月に消費税率を八%に引き上げるかどうかの判断を、十月上旬にすることを表明した。
メディアは重大事のように報じているが、何の意味があるだろう。
これまで、安倍首相は国会の「ねじれ解消」を目標として、消費税率の改定や憲法改正など、政治的対立を引き起こすような問題を回避してきた。
先延ばしの政治が、参議院選挙後に解消されるかと思っていたが一向に変わらない。
民主主義は参加と合意の政治と言われるが、最終的な判断や決定は少数者に委ねられる。
多様な問題からある問題を重要な問題として選定すること、問題に対する多様な解決策からある解決策を有効な解決策として選択することは、
全ての人々から合意を取り付けることが難しい。「何が重要か」、「いかなる解決策が望ましいか」の判断は、将来に関わることであり、多くの不確定を内包している。
そこに、政治指導が成り立つ。
政治指導が、問題の理解や解決策を完璧にすると言っているのではない。
合意は白紙の状態から自然と形成されるのではなく、作為や選択の中で形成される。
政治指導が、何らかの原則とレトリックによって、ある問題が「重要である」とか、ある解決策が「望ましい」とかを示し、他者への説得を試みる。
当然のように、政治指導は間違うこともある。
その時、一つの政治指導が退陣し、新たな政治指導が立ち現われる。
民主主義の政治指導とは、そういうものである。
私たちは、安倍首相の「保守の原則」について話を聞いたことがあるのか。
領土問題や沖縄問題についての解決策を聞いたことがあるのか。
何も示していないであろう。消費税率の改定も同じである。
政治判断のために、六〇人の有識者による「消費税の影響に関する集中点検」作業を行った。
何の意味があるのか。
多くの人々の意見を聞くという「民主的形式」を整えているように見えるが、まやかしに過ぎない。
有識者の意見は先行的に調べられ、初めから七〇%近い「予定通り実施」の結果が得られるのは既知であった。
無駄な時間を費やしたと言えるであろう。
必要なのは、有識者の意見聴取ではなく、消費税についての首相自身の判断である。
果敢に選択をしないそしてまた批判や議論を回避する政治指導はいらない。
不決断の政治は、極まったと言えるであろう。
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