羅針盤
自らの政治責任を自覚せよ
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
政治が動き出しているように見えるが、内実は劣化しているのではないか。
社会の問題を解決する政治の力が衰退しているのである。
政治は、経済を安定させ成長させるのに、復興を進めるのに、どれほどの力を発揮したであろう。
地域の再生もままならない。首相が言う国家の強靭化は進んでいるのだろうか。
ましてや国際社会の安定や平和に、どれほど貢献しているのであろうか。心もとない。
政治の力は、外的条件によって形成される。
産業構造や労働市場の変化で、経済の成長が抑制され、財政的資源や物的資源も安定的に供給されない。
そうした外的条件の変化が、政治の問題解決能力を抑制し、国家を衰退させる。歴史が教える事実である。
こうして、イギリスが世界を指導し、世界の問題解決をはかった「パックスブリタニカ」の時代が終わった。
十九世紀から二十世紀にかけてのことである。
二十世紀が託したことは、アメリカによる指導と問題解決、「パックスアメリカーナ」である。しかし、
二十一世紀に入って、「パックスアメリカーナ」が終わりを迎えつつあるようである。
アメリカ自身が、今世紀の中葉までに、GDPで中国がアメリカを追い抜き、世界の権力均衡や指導が変わると予測している。
最近の「リバランス(Rebalance)」論は、そうした変化を前提に権力均衡をどうするかという戦略論でもある。
わが国の位置も変化を余儀なくされるであろう。
政治の指導力、とりもなおさず問題解決能力を確かなものにするために、経済を中心に外的条件を強化することは必要不可欠である。
しかしそれだけによって、ガバナビリティーが成熟するわけではない。統治システムの再創造が必要である。
一つの解決策が、「コガバナンス(協治)」であろう。
問題解決を政府にのみ委ねるのではなく、社会を構成する個人、集団、企業、組合、地域など多様な担い手を育成し、ネットワーク化し、
政治参加を促進するのである。「自らを、自らによって、自らのために統治する」民主主義精神の確認と実践に他ならない。
政治に無関心を決め込み、安易な政権選択をすると、政治の暴走と劣化が生じる。
その責任は、私達自身にもある。新たな年は、責任を自覚し、政治参加と熟慮を実践することから始めよう。 |