集団的自衛権の宣伝戦を闘い抜こう
加藤 秀治郎
東洋大学法学部教授、政策研究フォーラム副理事長
集団的自衛権の宣伝戦を闘い抜こう
安倍内閣が集団的自衛権の限定的行使を容認する閣議決定をした。まずは党派を超えて、是は是として高く評価したい。
ここまでもずいぶん遠い道のりだった。だが、内閣支持率が低下するなど前途多難だ。
来年にかけて関連法案を成立させていかなければならず、勝負はこれからだ。
民主党内も議員の多数は賛成なのだろうが、左派に遠慮して党は明確な態度をとらない。
これをクリアできれば、反対は共産と社民だけのようなもので、国会それ自体の運営にさほどの困難はない。
問題は国会の外にあり、それを考慮すると見通しはまったく異なってくる。一部マスコミの反対が凄まじく、その援軍を得て、野党が抵抗するのは必至だ。
腰を据えて取組まなければならない。国民の支持の争奪戦であり、数字の出方によっては安倍内閣も及び腰となりかねない。
法案提出の先延ばしも、世論を意識してのことだ。
不安の一つは、「解釈変更」という方法を不当と見る国民が少なくないことだ。
詳しい調査データを見ると、集団的自衛権を行使できないままでは困るが、それは憲法を改正して行うべきだという回答が多い。
学校で教わった「教科書的な回答」ともいうべきで、今のところ宣伝戦では反対派が優位に立っている。
少し整理された情報が与えられたならば、世論の分布は異なっていただろう。過去にも解釈は変更されているのだし、今回の変更にも無理はないからだ。
だが実際には強引な「解釈改憲」との印象を持たれている。
連立与党・公明党が細かい注文を多くつけたので、与党協議が国民の学習につながらなかったのは残念だ。
報道量は多かったから、法律論でなく、基本的な考え方を説く機会になっていれば、世論も別だったろう。
言論に携わる者は過去の経験に学ばなければならない。
講和では「多数講和」が「単独講和」と貶められ、安保改定では「抑止力」を説けずに、「巻き込まれ論」に翻弄された。
だが、いずれも事が成ってみれば、世論は後追い的に指導者の英断を認めてきた。
政治家は腹を決めて取組み、言論人は本質を正確に説きたいものだ。
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