財政再建の実現のために財政均衡法を
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大岩 雄次郎
東京国際大学教授、政策研究フォーラム常務理事
財務省によると、二〇一四年六月末時点でのわが国の国債や借入金などを合計した「国の借金」は、一〇三九兆四一三二億円にのぼり、
過去最大を更新したのみならず、世界に類のない状況にある。
この金額は、二〇一四年度一般会計提出予算の歳出総額の約一一倍、同年度税収見込み額の約二一倍に及ぶ。
なお、この金額は二〇一四年度末にはさらに約一〇四・五兆円増えて、一一四三・九兆円になる見通しである。
この状況でも、来年度予定されている消費税一〇%への引き上げを巡って、様々な論議が繰りひろげられている。
安倍首相は、七〜九月期の経済状況を踏まえて、今年中に判断するとしている。
ただ、財政赤字の改善には構造改革が不可欠であることを考えれば、わずか一四半期の経済状況の動向を以って、
増税という長期の政策の可否を判断すること自体に無理がある。
一方、ドイツのショイブレ財務相は二〇一四年九月九日の連邦議会(下院)で、連邦政府の二〇一五年予算案に関し、
新規国債の発行を旧西独時代も含め四六年ぶりに停止し、「無借金」で歳出をまかなえる見通しになったと明らかにした。
この違いは何処にあるのか。
財政再建に関する実証分析に、次の「アレシナの黄金律」と言われる法則がある。
@最初に、公共事業、公務員の人件費や社会保障費等の歳出削減をやり、次に増税をやること。
A歳出削減と増税の財政再建の寄与度は七対三。
アレシナ教授によれば、財政再建に成功した国は、歳入拡大よりも歳出削減に力を入れているのに対し、
財政再建に失敗した国は、歳出削減よりも歳入拡大に力を入れていると言う。
しかし、いかなる法則も実行できて初めて意味がある。この法則に基づく政策の実行をいかに担保できるか。
特に歳出削減には政治的抵抗が多いことは言うまでもない。
今回ドイツが財政均衡を実現できた背景には、法律による裏付けがある。
つまり、国家に対して、「連邦および州の財政は、原則として、借入による収入なしに、これを均衡させなければならない」(一〇九条三項一文)として、
均衡財政を憲法上義務づけるものである。
これまでも財政再建に成功したほとんどの国で、憲法改正を含めて、様々な法律による財政規律の強化が図られてきた。
わが国の空前の規模に拡大した財政不均衡の改善には、時の政権や官僚による場当たり的な政策を抑制し、財政規律を長期に保つための法的な枠組みが必要である。
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