岡崎久彦氏の逝去を悼む
加藤 秀治郎
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東洋大学法学部教授、政策研究フォーラム副理事長
十月二十六日、著名な外交評論家・岡崎久彦氏が八十四歳で逝去された。
戦後日本では長らく非現実的な平和論が支配的だったが、その変則的な状況を改めるのに、
多大な功績を残された方であり、ご冥福を祈りたい。
私も続々と刊行される岡崎氏の著作を丹念に読んで、外交問題での言論の基礎としてきた。
代表作は一九八三年に出版された『戦略的思考とは何か』(中公新書)だが、この書物は言論界に一大事件のような衝撃を与えた。
平易な文体で、国際政治の常識を説き、戦後の外交論の虚妄を白日の下に曝したからである。
冷戦期の著作だが、今もなお読み継がれ、二十万部以上のロングセラーになっている。
だが、それも理由がないことではない。
昨今の争点である集団的自衛権に関連する部分を引くと、こうである。
中国と台湾の間で緊張が高まった場合の沖縄の話、と思って読んでもらうとよい。
「一般的に、戦争の当事国がある地域を攻撃するかどうかを決めるに際して関係あるのは、まず第一にはその地域を占領する……と、
そのあとの戦略的環境がどのくらい改善されるか」ということです。
「物差しは、その地域の戦略的価値と、その地域をめぐる軍事力のバランス」です。
「戦略的に重要な場所は、敵が取る前に取ってしまうのが常道です。
まして、戦略的に重要で、しかも中立国で、強力な同盟国もなく、独りで守るに足る防衛力もないところなど取られないはずがないといって過言でありません」。
要点をとらえた説得的な議論の、お手本のような文章である。
岡崎氏は、こういう観点から日米同盟の重要性を説いてやまなかった。
近年は早くから集団的自衛権の行使容認を説き、政府の解釈変更の実現に尽力していた。
この七月の安倍内閣の閣議決定に際しては、そのニュースにふれ、涙ぐんだと伝えられている。
最後のエネルギーを傾注してこの問題に取り組まれたのであろう。
残された我々としては、来年に控える集団的自衛権の関連法案を無事に成立させ、故人の霊前への最大の供養としたいものである。
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