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月刊誌「改革者」2016年7月号
「改革者」2016年7月号 目次
 

羅 針 盤7月号

                       日本経済の「実力」向上を

               大岩 雄次郎 ● 東京国際大学教授、政策研究フォーラム常務理事


 日本経済は、「高度成長期」から「安定成長期」、「低成長期」へと移り変わるにつれて経済成長率が段階的に低下してきた。 この低下の原因は、人口成長率の低下、設備投資の減少、技術進歩率の低下という構造問題にある。 つまり、潜在成長率(労働力や生産設備、技術など供給面から推計する成長の実力)の低下を意味する。 日本の潜在成長率は、一九八一年〜一九九〇年平均の四・四%をピークに一九九一年〜二〇〇〇年平均で一・六%に急減し、 現在では〇・四%(内閣府「今週の指標」二〇一六年三月)である。 日銀の「異次元の金融緩和」政策導入の火付け役であり、リフレ派の理論的支柱ともいえるノーベル経済学者のP・クルーグマン教授は、 『Rethinking Japan』(The New York Times ,OCTOBER 20, 2015)で、日本における金融緩和政策の有効性を見誤ったと述懐している。 要するに、クルーグマン教授は、自然利子率がプラスになる、つまり潜在成長率が回復することを前提に、金融緩和政策が有効であると主張した。 しかし、実際の日本経済はその後も極めて低い潜在成長率で推移したため、金融緩和政策が期待に働きかける効果を発揮しえる状況になかったことを認めている。 その上、クルーグマン教授は、ゼロ金利の下にある日本経済では、金融緩和による貨幣供給の拡大を図っても、 緊縮財政の影響を相殺することはできないと指摘するだけでなく、日本経済の潜在成長率の低下原因は、極めて不都合な人口構造にあることを指摘している。 日本の実質経済成長率が低いのは、潜在成長率の低さが原因である。 GDPギャップはマイナス一・六%(二〇一五年十〜十二月期のGDP二次速報)であり、このギャップを埋めるためにさらに需要を拡大しても、 潜在成長率を上げることはできない。金融政策も財政政策も需要サイドの政策であり、所詮一時的な時間稼ぎに過ぎない。 その間に、本来実行すべき構造改革の進展が見送られ、過度に緩和的な金融政策に依存することで、 むしろ金融の安定性を脅かすリスクを高めるという悪循環に陥りかねない。 一日も早く、金融・財政政策から成長戦略に軸足を移し、「異次元の構造改革策」によって潜在成長率の向上を図る必要がある。
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