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月刊誌「改革者」2019年10月号
「改革者」2019年10月号 目次
 

社会保障と税の一体改革の議論を塞ぐな!

谷藤悦史●政策研究フォーラム理事長・早稲田大学政治経済学術院教授

 二〇二〇年度予算の概算要求が、八月三十日明らかになった。要求総額は、過去最高一〇五兆円と六年連続で拡大した。  厚生労働省の概算要求は、一般会計で約三三兆円、年金・医療費などは自然増で五三五三億円程度に拡大し、約三一兆円になっている。  二〇二二年度から、団塊世代が後期高齢者になることを考えると、年金・医療費は拡大してやがて四〇兆円に到達する。国の財政を前提にすると、 社会保障制度の改革は必至となる。政府もこのことは理解していて、この秋から七年ぶりに社会保障改革の議論を始めるという。 安倍首相は、政権発足当初から社会保障改革を叫びながら、ほとんど手をつけなかった。「景気浮揚」を優先して何もしなかったのである。 メディアもほとんど関心を持たず、大きな批判もしなかった。  改革に取り組むことは望ましいが、大きな問題がある。二〇一二年に、民主、自民、公明三党は「社会保障と税の一体改革」で合意し、 その結果、消費税が五%から八%になった。社会保障改革は、社会保障を進める財源の議論と「一体となって」進められてきたのである。 今回は、この前提が崩壊した。安倍首相は、先の参議院選挙で、「今後十年ぐらい、消費税は上げない」と表明したのである。これで、 「増税なき社会保障改革」が既定路線となってしまった。  それが可能なのかどうかの問題は別にしても、政策選択肢は限定化する。@外来受診時の定額負担の導入、A年金受給開始年齢の上限を七五歳へ引き上げ、 B在職老齢年金の引き下げ、C介護サービスの自己負担引き上げなどが考えられている。「負担増」など、なんらかの痛みを伴う改革が必至である。 中高年層を中心に賃金の伸びが抑制されている状況で、これらの政策について広い理解を得ることは容易なことではないであろう。  政策選択肢の幅を広げ、多様な議論を展開して合意を生み、持続可能で安定的な社会保障制度を形成するためにも、 社会保障制度改革から消費税を含めて税制改革の議論を排除してはならないのである。「社会保障と税の一体改革」の議論を復活させよう。 財政改革のためにも必要不可欠である。
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