対応の政治から創造の政治へ
谷藤悦史●早稲田大学政治経済学術院教授、政策研究フォーラム理事長
政治は、「対応の政治」と「創造の政治」から構成される。いずれの政治に重きが置かれるかは状況によるが、「対応の政治」が主に展開されるときでも、「創造の政治」が放置されるわけではない。
「新型コロナ」の広がりに、どのような対策を講じるかは「対応の政治」の典型であるが、その時でも「創造の政治」を閑却してはならない。
危機管理学は、危機管理が、@予防ないし減災、A備えや準備、B迅速な対応、C修復ないし復興から構成されることを教える。
予防ないし減災、備えや準備は、「創造の政治」の性格を持っており、修復ないし復興もその要素が強いものである。
述べるまでもなく、迅速な対応は、「対応の政治」に関わる。これら全ての対処があってこそ危機管理は完成し、いずれかが欠けると、危機は拡大してしまう。
イタリアにおける感染爆発は、医療の予防・準備体制が脆弱であったことに起因する。強靭な医療体制を創造する試みがあって緊急の対応も成功する。
復興においてもその視点は大切で、目先の対応を優先して事に対処しても、一時的に危機は収束しても、社会そのものの危機統治能力は蓄積されない。
感染症が急速に拡大する時に、「対応の政治」を優先させることは必然だが、「創造の政治」も蔑ろにしてはならないのである。
「創造の政治」の視点は、危機管理のみならず、経済や社会政策にもかかわる。
景気や雇用の悪化に即座に対応することは必要であるが、同時に景気に左右されない産業・生活基盤を形成し、持続可能な経済産業構造を構築することも必要である。
それには、正確で長期のデータの収集、それらについての多様な解析に基づいた中長期目標の設定、目標を実現するための政策や手段の配置と進行管理などが、体系的に構築されなければならない。
そうした手続きを経ても、目標が達成され、社会の統治能力が整えられるとは限らない。しかし、政治が正しい手続きで実践されることで、政治に信頼が醸成される。正しい手続きの政治は、政治信頼を作り出す要諦である。
八年間の第二次安倍政権で棄損されたのは「正しい手続きの政治」であり、それが「創造の政治」の欠落につながっている。そしてまた、安倍政権の言葉や政治に信頼が生まれないことにもなっている。
「正しい手続き」に基づいた「創造の政治」を取り戻そう。
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