心配な「反基地」運動
加藤秀治郎●東洋大学名誉教授、政策研究フォーラム常務理事
心配されていたコロナ第六波が広まっている。沖縄県に加え、岩国をはさむ広島、山口両県に感染者が多く、米軍基地との関連が語られている。
真相は分からないが、早くも「反基地」感情が高まる可能性が出ている。日米安保廃棄の共産党をはじめ、反基地運動勢力にすれば格好の材料であり、懸念が強まる。善処したいものだ。
中国、北朝鮮など、東アジアは緊張を秘めており、この機に何か動きが出るかもしれない。そうでなくとも、今後に影響を残しかねず、日米安保の信頼性を高める方策をつめたいところだ。
最近、北朝鮮は核関連の技術開発を急いでおり、「核の傘」は大丈夫か、という不安が出ている。日米安保の意義の一つは「核の傘」だが、在日米軍存在の意味はそれに限られない。
そして在日米軍は、自衛隊・日本国民との円滑な連携があってはじめて、その能力を発揮できる。そこでは双方の「信頼性」が極めて重要である。
『日米同盟VS.中国・北朝鮮』(文春新書)でアーミテージとナイ両氏が注意を喚起しているが、条約があり、基地に米軍が存在するだけでは、「拡大抑止力」は充分に機能しえない。
直接、米国が脅威にさらされていなくとも米軍が動くとの、相互の信頼性が死活的に重要なのだが、感情がからむだけに脆弱な面があるのだ。コロナの感染拡大で反基地感情が高まるのを懸念するのは、このためだ。
幸い早急な対応がとられ、深刻にならないで収まる可能性がみえてきたのはよいことだ。だが、ここで今後の方策を詰めておきたい。
出来うることなら、基地協定の規定を杓子定規に適用するのではなく、感染拡大の前に、関係官庁は在日米軍に「要請」を行ってもよかったのではないか。
こういう話になると、すぐ「日米地位協定の改定を求めよ」という主張が出るが、ことが軍事に直結するだけに、馴染みにくい面がある。日米の協議で「運用改善に取り組む」というのが岸田内閣の意向だが、それが現実的だろう。
戦後日本では、こういう問題もすぐ法律論だけとなりやすいが、こと軍事では、法律で縛る発想だけでは緊急性に対応できなくなる。運用の余地を確保しておくのが肝心である。 |