任期六年で長期的な課題解決を目指せ
川崎一泰●中央大学教授、政策研究フォーラム常務理事
七月に予定されている参議院選挙に向けて、年金受給者や生活困窮者に現金を給付する案が次々と提案されている。名目はコロナ禍で痛んだ家計への支援だが、選挙目当てのバラマキ政策であることは容易に想像がつく。
選挙を目前にして特定の有権者へのサービスをしたくなる気持ちは理解できないわけでもないが、あまりに短絡的な提案にうんざりしている人も少なくないだろう。
そもそも参議院議員は解散もなく六年の任期が保障されており、長期的な課題に取り組みやすい環境であるはずだ。最近では、いくつもの困難を乗り越えてようやく成立した制度も、まさに「ちゃぶ台返し」で、ひっくり返そうとする発言も散見されている。
たとえば、一票の格差をめぐって司法から何度も違憲判決が出され、衆議院選挙の定数配分が機械的に決まるアダムス式が採用されることが二〇一六年に決まった。
いわゆる「一〇増一〇減」だが、いざ、次の選挙でこの制度を実施するという段階で、衆議院議長が異論を唱えはじめた。また、年金制度でも、従来は給付額の決定に物価上昇分を加味する仕組みとなっていたが、少子高齢化に伴い現役世代の負担を軽減すべく、
物価上昇分を減額する「マクロ経済スライド」が国会論争の末、導入された。減額といってもベースとなる基本額は変わらず、物価上昇分だけ調整するものであるにも関わらず、選挙のたびに停止を訴える議員が後を絶たない。
一九九七年の橋本内閣の時に財政構造改革法という法律が成立した。この法律は二〇〇三年度までに財政赤字をGDP比三%以内に抑え、赤字国債の発行をゼロにするものだった。ところが、翌九八年末の小渕内閣では、景気悪化に伴い、
この法律が停止され、現在に至るまで国債残高は膨張を続けている。
財政、社会保障、選挙制度に加えて昨今ではエネルギー問題など国の「かたち」を変える可能性のあるものこそ、長期的な視点で議論を深めてほしいところである。六年の任期が与えられた参議院こそ、こうした長期的な視点に立った議論ができるところのはずだ。
近視眼的なポピュリズムに惑わされずに「良識の府」としての役割を果たせる人を我々は選びたいところだ |