日本社会の再生は社会信頼の醸成から
谷藤悦史●早稲田大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長
「世界価値観調査」は、社会制度・組織に対する日本の人々の信頼が、自由民主主義を標榜している国の中で低いことを明らかにしている。
北欧諸国の社会制度に対する信頼は高く、アメリカを含めた西欧諸国は低くなっているが、その中でも日本は低位にある。
他の国と同様、政府、議会、政党、労働組合などへの信頼は低く、行政や大企業へのそれも低いままで続き、宗教団体に至っては最低である。
高い信頼を得ていた自衛隊、警察、裁判所、メディアについても近年変化が見られる。世界的なフェイクニュースの広がり、権威主義諸国の政治プロパガンダの多用の中で、
メディアへの信頼も低下している。インターネットに対する信頼は半数にも満たない(二〇二二年「メディアに関する全国世論調査(新聞調査会)」)。
サイバー犯罪、特殊詐欺による広域強盗事件の頻発も、社会の安全神話にゆらぎをもたらしている。ロシアによるウクライナ侵攻、中国の覇権主義的行動によって、安全保障についても不安が拡大した。
コロナも収束が見えない。そこに、経済停滞とインフレが襲う。こうして日本社会は、益々深い不信の中におかれる。
人々は明るい未来を構想することが難しくなり、委縮して今ある生活の防衛に走るが、それすらも持続が危うくなる。萎縮と収縮が再生産されて、成長と発展が阻害される。少子化と人口減少の進行、
「貯蓄から投資」への流れが進展しない底流にも社会不信がある。年金を代表に既存の社会保障制度に対する不信が、その運用を難しくさせる。社会不信を脱する道はあるのか。一筋縄では行かない。
大切な事は、基本的な原則に立ち返ることだ。その一つは、それぞれの制度や組織が明確な果実をもたらすことだ。成長する経済と公正な配分、安定的で持続可能な社会保障制度の形成は言うまでもない。
物的な豊かさに加えて、精神的な豊かさも必要である。それが人生と日々の生活の質を高める。人々に耳を傾け、誠実に対応して合意を形成して実施する政党、政府そして議会、
人的資本形成に投資や労を惜しまない企業や組合、自由で独立して正確な情報を共有して言論活動をなすメディアの実践などを恒常的に作り出す地道な活動が、社会信頼を醸成する。
それが、日本の再生を促す遠いようで近い道である。 |