出口の行方
中村まづる●青山学院大学経済学部教授、政策研究フォーラム副理事長
第二次岸田再改造内閣が発足した。岸田首相は、経済の好循環をもたらすよう、デフレを脱却し物価上昇を上回る賃金上昇とそれを可能にする投資の拡大を改めて掲げた。十月をめどに経済対策を策定し、今年度補正予算案を秋の臨時国会に提出する方針である。
物価高を踏まえた国民の生活支援策もその柱である。コロナ禍からの景気回復による原油価格上昇や円安による原油の輸入価格上昇の対策として、政府が二〇二二年一月に導入したガソリン補助金は、当初から終了を予定していた九月末の期限を延長する。
原油価格は二〇二二年夏頃をピークに徐々に低下し、年末にはウクライナ侵攻前の水準に戻った。米欧主要国のほとんどでは、燃料価格高騰で導入した緊急対策を終了している。ガソリン補助金も今年九月末の終了に向け、政府は今年一月から補助金の上限額を徐々に下げてきた。
しかし、原油を輸入に頼っている日本では、ガソリン価格に為替変動も大きく影響する。異次元の金融緩和の出口が不透明な状況では、内外金利差による資金流出、円安基調が今後も予想される。時限的であったはずの補助金も出口を逃しかねない。
そもそも、ガソリン税は価格上昇が続いた場合に課税を一部停止するトリガー条項が定められている。補助金よりも減税という意見も根強いが、政府は発動を見送っている。政府予算による物価抑制が、財政赤字を容認し国民負担の増大につながるのは本末転倒である。政府が信用を損なえば、それ自体がインフレのリスクとなる。
補助金は市場原理を少なからず歪めるものである。価格とは本来、市場での需要と供給によって決定されるべきものである。価格が上昇すれば消費を控え、代案を探ることが市場の活力につながる。その意味で、ガソリン補助金は脱炭素の時流に逆行している。
国民を広く対象とするガソリン価格の抑制は、恩恵が所得に逆進的となることも考えられる。生活必需品価格の高騰を看過できないことを理由に、単なるバラマキに終始することのないよう、効果を注視していく必要がある。
なし崩し的に止められないまま、本来、必要な議論が看過されることは避けるべきである。
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