成長と分配は循環するのか
中村まづる●青山学院大学経済学部教授、政策研究フォーラム副理事長
コロナ禍もようやく過去のものとなり、感染症五類への移行後は「四年ぶり」を枕詞にさまざまな行事が復活した。以前の生活を取り戻すなかで、最近は「バブル期以来」と銘打った久しぶりのニュースを目にするようになった。
三月には、株価がバブル期を超え史上初の四万円台を記録した。春闘では五・二八パーセントと三十三年ぶりの大幅賃上げが実現した。そして、日銀のマイナス金利解除決定は、一九九〇年代後半以降続いてきたデフレからいよいよ脱却し、新たなステップに進む兆しを感じられる。
経済活動の再開とロシアのウクライナ侵攻を契機に世界的に物価が上昇し、インフレ対策に追われた各国では一斉に金利を大幅に引き上げた。日本でもようやく物価目標の二パーセントを超えたものの、金融緩和の維持による内外金利差の拡大が急激な円安を招いた。四月には一五〇円台半ばまで三十四年ぶりの最安値を記録した。
各国がインフレの再燃や景気動向に配慮しながら金融緩和を模索する一方で、マイナス金利解除は大幅な金利の引き上げにはつながらず、内外金利差の解消には時間を要する。かつて、円安は輸出増が景気拡大を牽引するものと歓迎されたが、円安による輸入物価上昇が続くと実質所得や購買力の低下が懸念される。日本では九〇年代以降、実質賃金も低迷を続けている。経済回復の成果として物価上昇を上回る賃金上昇を実現できれば、これも三十年ぶりの大きな前進となる。
また、日本では少子高齢化も長年の課題であり、人口減少社会へと突入した。労働力人口のベースとなる一五歳?六四歳の生産年齢人口は、デフレと同時期の九〇年代後半から減少している。雇用状況が改善し、高齢者や女性の労働参加が進んでも、今後は本格的に労働力不足が深刻化する。「物流の二〇二四年問題」は働き方改革を背景とした、その象徴でもある。
日本経済がいくつもの契機に直面している一方で、政府は少子化対策、所得減税と大型予算を打ち出し、その財源には経済再生による税収増をも見込んでいる。ようやく芽生えた成長が実を結び、国民に適正に分配され、さらなる豊かさをもたらすような好循環につながるのか、これからが正念場である。
|