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月刊誌「改革者」2024年 6月号
「改革者」2024年6月号 目次

為替レートと日銀の関係

谷口洋志●中央大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長

 四月下旬に円安・ドル高が進んだときに日銀の金融政策決定会合が開催された。多くのマスメディアやエコノミストは、この決定会合で日銀が円安阻止に動き、利上げをするのではないかと予想していた。
 しかし、四月二十六日の日銀総裁会見では為替レートの動きを無視するような姿勢が示されたことから、円安がさらに進行し、四月二十九日には一ドル一六〇円台の歴史的円安を一時的に記録した。その後は、財務省による為替介入により、為替レートが円高に向かう動きが何度か生じた。
 もっとも、たとえ何度か為替介入をしても、手持ちドル資金に限界がある限り、また、日米金利格差が縮小しない限り、為替レートの動向を変えることは難しい、というのが一般の理解である。
 ところで、四月下旬の金融政策決定会合に対する一般の期待感には大きな誤解と疑問がある。
 そもそも、為替レートへの介入は、財務省が管轄する外国為替資金特別会計を通じて措置される。日銀のウェブサイトによると、「円相場の安定を実現するために、財務大臣の権限において実施され…、日本銀行は、財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行して」いる。したがって、日銀が単独で円安阻止に動くということはありえない。
 とはいえ、通貨間の売買をしなくても日銀は為替レートに影響を及ぼすことはできる。その典型が政策金利(短期金利)の利上げである。日本の金利が上昇すれば、日米の金利差が縮小し、円買い・ドル売りに資金が動くと期待されるからである。
 では、なぜ日銀が利上げをしなかったのか。それを解く鍵は、四月十日公表の輸入物価指数にある。円ベースでは前年比が今年一月まで十か月連続のマイナスが続いてから反転したが、二月は〇・二%、三月は一・四%の小幅上昇にとどまった。前月比では、三月の数値はマイナス〇・四%であった。
 これらの背景には、円安による物価上昇を相殺するドル価格の大幅下落がある。その結果、為替レートが多少円安方向に動いても輸入物価や国内物価への影響は小さい。日銀の関心事は、為替レートそれ自体にはなくて、あくまでも二%の物価上昇の実現なのである。

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