トランプ関税と日本の対米投資
中村まづる ●青山学院大学教授、政策研究フォーラム副理事長
トランプ2・0が始動した。トランプ大統領は、就任当日から次々と大統領令に署名している。貿易相手国に対する関税引き上げを公言していたトランプ大統領は、カナダとメキシコに二五%、中国に一〇%の追加関税を課す大統領令を発令したが、カナダとメキシコには適用開始が一カ月延期された。
さらに、アメリカが輸入する鉄鋼とアルミニウム製品に二五%の関税を課すことを表明した。すべての国が対象で例外は設けないとしているが、オーストラリアについては、アメリカの貿易黒字などを理由に適用除外を示唆している。今後は、自動車、半導体、医薬品などにも追加措置が見込まれるが、関税を取引(ディール)のカードとして譲歩を狙い、実利を引き出す外交が繰り広げられていく可能性がある。
EUなど貿易相手国からは反発の声が上がり報復関税も示唆されているが、関税引き上げ競争は誰にも利益をもたらさない。OECDが昨年十二月に発表した予測では、世界の経済は二〇二五年?二六年にかけて安定的に成長する見通しであった。世界貿易は今後も増加が見込まれるが、保護主義がサプライチェーンの混乱やインフレの再燃を招くと悪影響をもたらしかねない。特に、対中関税は内需が低迷している中国経済にとって打撃となり、各国の経済への波及も懸念される。
二月七日に開催されたトランプ大統領就任後初の日米首脳会談で、石破首相は五年連続で国別首位を遂げている日本の対米投資額を一兆ドルまで引き上げることなど、経済連携の強化を伝えた。日本からの対米投資は現地の雇用創出や景気浮揚に寄与するだけでなく、日本にとっても先端産業や経済安全保障の観点から連携強化への期待が寄せられている。
一方で、海外投資の偏重は国内投資を阻害する可能性もある。日本企業が蓄えてきた「内部留保」は十二年連続で過去最高を更新し、二〇二三年度末には国内総生産に匹敵する六〇〇兆円を超えた。その有効な活用については長年にわたり論じられてきたが、対米投資を今後の交渉カードとするだけでなく、国内の成長路線にもつなげる必要がある。海外投資の利益を国内還元し、設備投資を活性化させ、生産性の向上に結びつけ、賃金上昇をもたらす資金配分の戦略が望まれる。
|