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月刊誌「改革者」2008年6月号
「改革者」2008年6月号 目次
 

羅 針 盤(6月号)
       覇権国家に少数民族の独立を否定しその文化的抹殺が許されるのか

                            堀江 湛
               尚美学園大学名誉学長・政策研究フォーラム理事長


独裁国家は基本政策に行き詰まると、トップを変えて政策転換を図り政権を延命させる。胡錦濤主席は小平に後継者と指名されたが、天安門事件の改革開放路線をとる胡耀邦の流れも汲むとされる。その出身母体である共産主義青年団の選り抜きを大量に引き連れて来日した。勿論その目的は聖火リレーのランナーを守るためだけではない。経済発展の次の段階に進むには自由化と対日関係の修復は不可欠だ。権力基盤である彼らに日本の経済や社会活動の実態を見聞させるためだったのだ。 オリンピックに聖火リレーを導入し、国家威信発揚の具に仕立て上げたのは一九三六年ヒットラーのベルリンオリンピックだ。この聖火リレーとオリンピック競技を通じてドイツ民族の血の純潔と反ユダヤ主義を煽り総統ヒットラーの求心力を高めた。オリンピックは国際的イベントだが、独裁国家では国民的統合強化のイベントなのだ。 ところで胡錦濤主席は一九八八年末チベットの最初の文官総督に就任するや軍事委員会主席を兼ね、年明けのチベット暦正月の最大の宗教行事モンラム(大祈祷祭)を突然禁止した。総本山ジョカン寺に全国から参詣する僧侶、信徒に武力鎮圧を加え、二ヶ月にわたり軍事弾圧と無差別殺戮を加えた。チベット政策の失敗を認めたことが師胡耀邦失脚の一因だったが、第二次大戦終了まで実効支配の行われなかったチベット族の中国への文化的同化を一挙に進めるための功にはやってのことだろう。 欧米の政治家は国家第一の任務として自由を挙げる。一八世紀絶対王政と戦い、市民的自由の擁護者としての国民国家を形成したからだ。人権感覚の差はここから生まれる。 しかし一度国民国家が成立したとき、その内部に異なる文化、言語、宗教を持つ少数派が存在すると国家は一転して少数派の自治、独立を否定し、同化政策、挙句の果ては少数派固有の文化の抹殺を強行する具に転化しかねない。チベット問題はコソボで中東、アフリカ、中央アジアで抱えている問題と同根なのだ。 訪日の旅から帰国した胡錦濤国家主席に四川大地震が冷水を浴びせた。最大の被災者がチベット系住民とは皮肉な話だ。
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