政権運営構想をマニフェストの焦点に
加藤 秀治郎
東洋大学教授
世襲禁止など、政権公約(マニフェスト)をめぐる議論が騒がしい。
それはそれで結構だが、肝心かなめの問題が盲点となってはいないだろうか?
政権公約は、英国をモデルに導入されたもので、そのためか英国の特殊事情がまぎれこんでいるのかもしれない。
英国は単純な二大政党制に近く、二党のうち勝った方が単独政権を担う。また、第一党の党首が自動的に首相となるから、
それ以外の人物が選挙直後のゴタゴタの中で首相となることはない。言うまでもなく、このような点では現在の日本は事情を大きく異にする。
その意味では、政権公約で参考になるのは、ドイツ型である。選挙制度の基本が比例代表制だから、連立政権が常態化しており、
どういう連立になるかが選挙民の最大の関心となる。
そのため、各党は連立の方針を示して選挙戦を闘うのが慣例となっている。
また、総選挙後の連邦議会(下院)で首相指名の投票を行うので、首相は党首でなくてもよく、過去に何人かその例がある。そこで、
大きな政党は総選挙の前に、「わが党が勝てばこの人を首相にする」と、首相候補を明示してキャンペーンをする。
さて日本である。
「ねじれ国会」で明白になったように、衆院で過半数を維持するだけでは政権運営が困難である。
衆参での過半数確保を考えて政権を構想する必要があるのであり、これはかなり複雑な状況である。だとすれば、
下院の総選挙だけで政権が決まるわけではないから、ドイツ以上にきちんと構想を出してもらわないといけない。
各党は政権公約で政権運営構想を示さなければ、無責任というものなのだ。
政党や政治家はフリーハンドを確保しておきたいから、
総選挙の時に連立の構想を語るのを嫌う。だから国民が黙っていると、肝心なことがわからないまま総選挙になりかねない。だが、
それでは有権者不在となる。
総選挙の前に各党は方針を示すべきであり、政党がそれを回避しているなら、マスコミは厳しく追及し、
ホンネを引き出してもらいたい。
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