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月刊誌「改革者」2009年8月号
「改革者」2009年8月号 目次
 

羅 針 盤(8月号)
                  政権選択のチャンスを生かそう

                          堀江 湛
              慶應義塾大学名誉教授・政策研究フォーラム理事長


 解散、総選挙、総選挙公示の日程は自民党内挙げての大騒動の末、ぶれまくってやっと決定した。 現行総選挙の小選挙区比例代表並立制は一九九六年自 ・社・さ連立の村山内閣を受け継いだ自民党の第一次橋本内閣の手ではじめて実施された。 争点は自民、新進の二大政党化と第三極民主党に対する国民の審判とされたが、結果は五〇〇議席中自民二三九議席、 新進一五六議席、民主五二議席で、いっこうに二大政党制にならないではないかという厳しい批判が評論家、学者から浴びせられた。 元来この選挙制度は五五年体制下の派閥政治と族議員の弱体化、金のかかる選挙と政治腐敗の除去を目指したものだった。 経済の発展につれ社会の利害対立は十重二十重に絡み合うようになった。国会の政策形成はこの多様な利害対立の統合を目指すことだ。 小選挙区制では選挙区の多様な利害調整に成功したものが当選の栄冠を勝ちえる。 他方比例代表制のもとでは個別利益を組織化しなければ当選できない。国会は妥協が自己否定につながる拒否権集団の集合体に堕する。 一方、高度経済成長は何事にも金のかかる社会を出現させた。 もはや大派閥の領袖といえども派閥の維持に必要な政治資金をすべて自力で調達することは不可能になった。 かわって官僚主導行政のもたらす補助金と裁量行政が派閥の維持拡大の装置に転換した。 衆参合わせてわずか二一名の小派閥麻生派が首相を出すなど、昔では考えられなかったことだ。 派閥の領袖から与野党の気鋭の新進政治家まで巻き込んだリクルート事件は金のかかる腐敗選挙の弊害を暴露することを通じて政治改革の起爆剤になった。 小選挙区制導入と政治資金の国庫助成、企業献金の規正強化は政治改革の目標となった。しかしこれら改革は国会を通過しない限り実現しない。 五五年体制の打破は必要だが民社、公明、共産といった小政党を巻き添えで消滅させることも、 すべての政治資金を国家助成に依存させることも自由な市民の政治活動の自己否定につながる。 しかし新選挙制度も回を重ねるにつれ、総選挙が国民の政権選択の機会だとする理解、 そこで争われるのは党首のパーソナリティーに表現される基本政策を頂点とする政策のセットなのだという理解が定着してきた。 工程表を伴うマニフェスト選挙がこれを加速した。 ひとつの政党から複数のマニフェストが出るなどということは自己撞着も甚だしい。有権者を愚弄するものだ。
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