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月刊誌「改革者」2009年11月号
「改革者」2009年11月号 目次
 

羅 針 盤(11月号)
               日本は米中ニ超大国時代をどう生きるか

                          田久保 忠衛
              杏林大学客員教授・政策研究フォーラム副理事長


 自己宣伝めいて恐縮だが、私は最近『米中二超大国時代の日本の生き筋』と題する二〇〇ページばかりの本を出した。 国際秩序の変せんの中でアジアの現状と日本の今後を観察した所感である。 米中両大国の狭間に存在するという地政学的立場がよくわからないままに、 日本は両大国の顔色を窺いながらひっそり生きていくコースを辿っているとしか考えられない。 日米同盟は米国が戦略上日本の基地を必要としているから永遠に続くと思い込んでいる日本人は少なくないのではないか。 しかし、同盟の前提には日米共通の「敵」の存在がなければ同盟そのものの意味はない。かつてはソ連の軍事的脅威が日米同盟の対象だったが、 ソ連の崩壊でその脅威はひとまずなくなった。とすると、同盟の対象は朝鮮半島と中国になったのか。 中国を国際社会のプレーヤーとして取り込んでいこうとの米国によるエンゲージメント(関与)政策はニクソン大統領の訪中から始まった。 当初のねらいはソ連を封じ込める点にあったが、ソ連の崩壊後は中国自体を国際社会のあらゆる面に関与させるところに目的が変わった。 孤立した閉鎖国家で置いておくよりも国際社会になじませた方がより安全だし、経済的には市場を開放させたいとの各国の願望もあったろう。 ブッシュ政権では、「戦略経済対話」という閣僚級の協議機関が設定され、さらにオバマ政権では、「戦略・経済対話」に発展した。 「・」がついたのは安全保障と経済の二つを戦略的に話し合おうとの趣旨だから、これだけでも米中両国の接近の度合いがどれほどかわかるだろう。 毛沢東以来中国が軍事大国化の道をひた走りに走ってきたのは周知のとおりだ。 その国が経済大国を目指し、GNPの大きさでは米国に次ぐ地位になるのは時間の問題だ。 中国は戦前の苦い経験から「富国強兵」を目指すのだという。日本は戦前の反省から「富国弱兵」でいいのだと考えて現在に至っている。 経済と軍事に力をつけた国の外交力がどれだけ強力か。日本にはこれがわかっていない。 日本人のアイデンティティーがなくなり、国民の目は国内にもっぱら向けられている。 戦後最大の危機が到来している、と考えるが、こんな見方をする者も少数だろう。
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