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月刊誌「改革者」2010年1月号
「改革者」2010年1月号 目次
 

羅 針 盤(1月号)
              鈍感外交が運命を狂わせる怖さ

                          田久保 忠衛
              杏林大学客員教授・政策研究フォーラム副理事長


 米国が音頭を取って開かれたワシントン軍縮会議(一九二一〜二二年)の主な狙いが日英同盟の廃棄にあったことは周知の事実だが、 日本側にはさっぱり危機感がなかった。 ヒューズ米国務長官は同盟を終りに持っていこうとする米英両国の真意を日本に悟らせないよう、 国務省の日本問題専門家E・L・ネビール氏に日本の対外活動に関する報告書を作成させ、 それを熟読したうえで、さり気なく日英同盟を日英米仏の四カ国条約に差し替えようと日本側に働き掛ける。 駐米大使で会議の全権委員であった幣原喜重郎は自著『外交五十年』の中で、「国務省へ行った参事官の佐分利貞男君が、 英国より日英同盟に代わるべき案を国務省に持ち出していることを聞いた。 これはやはり米国を引き入れた一種の同盟、もしくは協商のようなものだという」といったのんびりした受け取り方で、 英国は日本に何の相談もなしに米国に話を持っていくのは不可解だ、などとトンチンカンな文章を綴っている。 同盟がなくなったあと日本が国際的な孤立に追い詰められていく運命的な瞬間に居合わせた当事者としてはあまりにも鈍感すぎる。 鳩山由紀夫首相の日米外交を観察していると同じような鈍さを感じる。 沖縄の米軍普天間飛行場は十三年越しに名護市辺野古にあるキャンプ・シュワブへ移設合意が日米間で成立していたにもかかわらず、 これを「県外」、「国外」に持っていくと首相が公言したり、岡田克也外相の口から急に「嘉手納統合案」が飛び出せば米側は怒る。 十月にゲーツ国防長官が訪日する前に日本側から外務・防衛両相との夕食会や自衛隊の栄誉礼を受けてほしいとの要請を断わられ、 十一月のオバマ訪日の際に日本側が頼んだ鳩山 ・オバマ二人だけの会談、あるいはコペンハーゲンで開かれた気候変動枠組条約締約国会議における日米首脳会談の打診も拒否されている。 当然ながら米側は露骨な「拒絶」ではなく、適当な理由をつけた婉曲な断わり方だが、それが何を意味するかわかっていない。 「首相の鈍感さが原因だ」で済めばいいが、これが日本の運命を左右する契機にならなければまことに幸いだ。
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