柳田前法相の捲土重來を期待する
堀江 湛
慶應義塾大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長
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慶應義塾大学名誉教授、政策研究フォーラム理事長
とどのつまり柳田法相はつめ腹を切らされた。もとはといえば地元広島の後援会での大臣就任祝賀パーティー中の発言だ。
氏は国会議員としてはベテランだが特に法務には詳しいわけではない。
大丈夫かという参会者の心配を慮って「『個別事案への答弁は差し控えたい』
『法と証拠に基づいて適切にやっている』の二種の答弁を覚えておけば国会答弁は乗り切れる」と笑いを取った。
これを会場に入っていたNHKのカメラが撮って、全国ネットで繰返し放映した。
週明けの衆院法務委員会で河井自民党委員がこれを追及、紛糾したが、法相の釈明でその場は収まった。
しかし翌日逢沢自民党国対委員長が政府与党を揺さぶる好機とみて法相発言は国会議員と、歴代法相を愚弄する国会軽視発言だと、
衆・参両院で法相の責任を問う問責決議案提出の意向を示した。これに全野党が批判の足並みを揃えた。
当初身内での失言とベタ記事扱いだったマスコミも大々的にこれを取上げるに至った。
法務大臣は法曹界出身以外の大臣にとって司法特有の概念や言い回しが多く国会答弁の厄介なポストだ。
役人の進言した二つの答弁を活用したのは柳田法相のみならず、それこそ歴代自民党法相の中にも少なくない。
やる気満々の柳田大臣のリーダーシップで発足した検察の在り方検討会議も発足、年度末までに答申をまとめるはずだった。
委員も大臣の意向で郷原信郎、江川紹子のお二人も入り、検察のみならず法曹全体の抜本見直しへの先鞭を付けたものと注目されていた。この行方が心配だ。
尖閣問題で拘留中の船長を処分保留のまま釈放する決定は政府答弁書では那覇地検、福岡高検、最高検の協議により決定、
まず法相次いで官房長官、ニューヨーク出張中の外相、総理の順に報告されたという。
釈放の決定自体は検察の権限だ。しかし「国民への影響や今後の日中関係を考慮、
さらに身柄を拘束して捜査を続けることは相当でない」との紛れもない政治判断を釈放の主因として公表する以上、
事前に検事総長が法相の意向を伺い、その許可を得た上でのことだと併せ公表しない限り検察の政治介入の批判は免れまい。
誰が実質的決定者かはわからない。だが文字通り就任早々だった大臣を責めることは酷だ。
いずれにしても好漢自重して捲土重來を期されたい。
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