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月刊誌「改革者」2011年2月号
「改革者」2011年2月号 目次
 

羅 針 盤(2月号)
           参院選の格差是正 緊急だが中味の検討は慎重に

                          堀江 湛
              慶應義塾大学名誉教授・政策研究フォーラム理事長


  西岡武夫参院議長は参院選挙の一票の格差是正をはかる同院の選挙制度改革検討会の初会合で、 現行の比例代表選出議員と都道府県単位の選挙区選出議員を一本化、衆院のブロック制比例代表制度を導入、 このうち北関東の埼玉県を南関東に移すことで一票の格差を一・一五以内に抑えるという議長私案を提出した。 参院選は三年毎の半数改選だ。従って来年には次の選挙態勢に入る。 しかも複数の弁護士グループが全国の高裁や同支部に一票の格差是正訴訟を起したこともあずかって、 各高裁で次々に違憲、あるいは違憲状態の判決が下りている。 最高裁も衆院については来月、審理に入る。 参院については既に〇七年選挙についての判決文の中で選挙制度自体の見直しも必要と指摘している。西岡提案はこれら諸点を踏まえての対応策だ。 ただこの提案には問題もある。 まずブロック別とはいえ参院をすべて比例代表制にすることだ。 院の創設以来、議員は全国一区で選出する全国的規模の有識者と各都道府県から人口比に応じて選出する地方の有識者で構成されてきた。 これを抜本的に変えるのであれば、国民世論を問うそれなりの手続きが必要だ。 この案では各ブロックが小党分立となって衆参ねじれが常態化する恐れが強い。 またもし総選挙と参院選が同時もしくは接近して行われると埼玉県の有権者は衆院では北関東、参院では南関東ブロックで投票することになる。 有権者の反発や思わぬ混乱も生じかねない。 わが国では比例代表制が最も正確に民意を反映するという思い込みがある。 比例代表制といっても多様であるが、この制度の下では特定の政治組織に属さないと当選は難しいし、当選後も政治活動は強い拘束を受ける。 もし従わなければ次期立候補も難しい。 時代の進展につれて国民の利害は複雑に絡み合い多元的対立軸が錯綜するようになった。 そのためかつて強力な組織を誇った諸団体も成員の広範な自由を認めるようになった。 反面、依然として特定の政策実現を求めて一切の妥協を拒否するシングル・イッシュー・パーティーが存在する。 国会が多党化し政権が不安定化するとこれら政党が国の存亡に関わる政策決定においてキャスティング・ボートを握る場面が生じかねない。 今回の参院選挙制度改革案が現行衆院で小選挙区制が持つ統合機能と比例代表制の持つ少数意見の吸収及び過度な小党分立は阻止するある種の阻止条項機能の微妙なバランスを突き崩し、 衆参のねじれを常態化し国の政策の基本的合意形成を不安定化することだけは避けなければならない。
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