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月刊誌「改革者」2011年3月号
「改革者」2011年3月号 目次
 

羅 針 盤(3月号)
               ペリー来航に匹敵する困難の時

                          田久保 忠衛
              杏林大学名誉教授・政策研究フォーラム副理事長


  「明日は明日の風が吹く」だとか、「じたばたしてもはじまらない」との気質は日本人一般にあるのだろうか。 あるいは江戸っ子の遺伝子なのだろうか。 日本の歴史的大事件だったペリー来航も、事前にオランダ風説書なる情報文で伝えられていたし、ペリーが黒船艦隊の艦長に任命され、 艦隊派遣の準備が急ピッチで進められているニュースは出発の二カ月前にあたる九月二十七日付ニューヨーク・タイムス紙で詳しく紹介されている。 当時アジアでは最大の強国だった清国の圧力を受け、江戸末期にあらわになってきた帝制 ロシアの軍事的脅威に加えて、米国からの開港要求がなされ、 さらに英国は薩長両藩に、フランスは幕府について日本はズタズタにされる寸前で、下級武士を中心に明治維新が断行され、日本は近代国家への第一歩を踏み出した。 いま、日本は中国の脅威に直面しているが、どれだけの緊張感が生れているのだろうか。 恐ろしいのはロシアが北方領土の実効支配を完成するために、われわれの眼前に強大な軍事力を誇示し始めたことだろう。 昨年六月から七月にかけてロシアは「ボストーク二〇一〇」なる大規模な軍事演習を択捉島を含むシベリア地方で実施し、九月二十七日には北京で中露首脳会談を行い、 対日戦勝記念日を九月二日にすると決めた。 歴史の捏造を世界の人々の目の前でやってのけた。 戦争末期の日ソ関係で日本は徹頭徹尾被害国であったことを恥かし気もなく全面否定してみせたのである。 十一月二日にメドベージェフ大統領は傍若無人にも国後島を訪問した。日本政府は何の対応も取れない。 腰の引けたのを見透かしたようにロシア側はシュワロフ第一副首相、バザルギン地域発展相、セルジュコフ国防相らを北方領土に入れ、 二月十日の前原誠司外相の訪露に狙いをつけたかのように軍備増強方針を打ち出した。 択捉島に軍用空港を建設し、フランスから購入予定のミストラル強襲艦の配備計画も明らかにした。 憲法前文で勝手に、国際社会を「平和を愛する諸国民」と決めて、「軍事」をおろそかにしてきたツケは払えるのか。 ペリー来航に匹敵する国難ではないか。
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