出 版 物
月刊誌「改革者」2011年5月号
「改革者」2011年5月号 目次
 

羅 針 盤(5月号)
               東日本大震災と東電原発事故

                          堀江 湛
               慶應義塾大学名誉教授・政策研究フォーラム理事長


  われわれ世代がかつて経験したことのない大地震と津波に加えて、 この国の次世代を担うクリーンエネルギーのホープのはずだった東電福島第一原発が壊滅的被害を蒙った。 この事態に菅首相は立ち上げたばかりの審議会、復興構想会議の提案に飛びついて、政府に向う五年間復興消費税の名で消費税八%への増税検討を命じた。 まだ懲りないのか。 今必要なことは一日も早く被災地の復興を進め被災者の生活を安定させることだ。 被災地の街と住宅、道路港湾の再建はもちろん、日本全体の食を支える農・漁業、 この地に多い自動車はじめ日本の製造業を支える部品産業等中小企業の再建は被災地のみならず日本経済全体の浮揚に不可欠だ。 幸い自治大臣片山善博慶大教授は自治省出身だ。わが国有数の財政力の弱い鳥取県知事で苦労を重ね、市町村の権限強化論者だ。 少なくとも今この時期に被災地住民に八%もの消費増税は酷だ。青森から茨城まで太平洋岸五県については増税どころか減税が必要だ。 国の消費税四%を無税とし、地方消費税一%を二%に上げ、県と市町村に半分づつ配分し復興を促進させることを逆提案したい。 被災地あるいは避難を命ぜられた市町村ともなれば税収はゼロだ。県の被害も大きい。 地方交付税中六%の特別交付税を給付するのなら、当初予算で全額をこの五県の市町村に配分して欲しい。 県のガソリン税等地方譲与税、市町村の自動車税、発行済未償還の地方税等の国の肩代りも必要だ。 原発事故の方も首相の対応はおかしい。 三月十一日東電福島第一原発の被害が明らかになった直後、米政府から原子炉冷却に関する技術支援の申し入れがあったが日本政府がこれを断ったという。 冷却剤の投入は廃炉を前提とするものだったからとされる。反米意識はなかったか。 東電側が断ったことは理解できる。現場の技術陣は何としても廃炉だけは避けたかったのだろう。 しかし首相は米軍の説明を真摯に検討し、妥当と判断したら断固東電側に受諾を命じるべきだった。 ところで原子力安全委員会の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」によれば指針二七に「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、 送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待されるので考慮する必要はない。 (以下略)」と記されている。なかなかそうもいくまいが法的には東電に責任はないことになる。
ホーム
政策研究フォーラムとは
研究委員会
海外調査
研修会
出版物
リンク
お問い合わせ