緊急事態の法制の整備を
加藤秀治郎
東洋大学教授・政策研究フォーラム副理事長
この度の大震災と大事故では、菅内閣の対応の遅れが目立ち、地元からは悲鳴のような声があがった。
例えば福島県の桜井勝延・南相馬市長だが、四月三十日付読売新聞で「国は超法規的措置で支援を」と訴えている。
「国は復興に当たり、超法規的措置で、法律は後付けとなっても自治体を積極的に応援するくらいであってほしい」というのだ。
誰も「問題発言だ」などとは言わないだろうが、日本は法治国家だから、政治・行政は法律に則して行なうのが大原則で、
本来「超法規」はいけないとされる。
ここから先で、意見が二つに分かれるのだが、「だから予め緊急事態に対応できる特別な法制を準備しておくべきだ」というのが、大半の国の考えである。
ところが日本では、それを言うと戦争に備える有事法制だとして反対する人が多い。
緊急時だからといって特別なことを認めると、そこから「アリの一穴」のように、民主制や人権擁護の原則が崩れていくと言うのだ。
今回は自然災害と大事故だが、災害対策基本法により「災害緊急事態」の布告を出し、次々と内閣の判断で政令を出すことも可能であった。
だが、それでは別の問題が生じるとして布告は見送られ、その結果、緊急の措置が後手に回ることになった。
確かに、同法の適用条件は厳しく、「国会閉会中」や、「衆院解散中で参院緊急集会を待てない」場合にのみ限られているから、
その法律の趣旨に沿うなら、布告すべきでないというのが、筋であったろう。
だが、国会は「衆参のねじれ」で、迅速な対応がとれる状態にはない。その犠牲になっているのが現地の住民や自治体である。
諸外国では緊急事態法制を整え、平常時の法律で対応できない事態に備えている。
英米諸国のように大統領や内閣に一時的に幅広い立法権を認め、対応するというのがいやならば、ドイツのように憲法(基本法)で詳細に規定すればよい。
わが国のように、緊急時の法制が整っていないのが、いざという時には最悪なのだ。改めて緊急事態での法制を急いで整備するよう訴える次第だ。
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