止まるところを知らぬ菅内閣の迷走
堀江 湛
慶應義塾大学名誉教授・政策研究フォーラム名誉顧問
菅内閣は最早内閣の体をなしていない。
所詮攻撃一方の市民運動家の枠を超えられず、機を見るに敏だが大局に立って状況を判断し、
ことをまとめるに当たり必要なら泥をかぶることも辞さないという政治力ないようだ。
七月十三日朝日新聞が朝刊社説を中心に大々的に原発ゼロ社会の提言を行った。
首相の反応はすばやかった。これに乗れば支持率が上がる。解散にも持ち込めるかも知れないというわけだ。
早速単独記者会見が開かれ、脱原発社会の実現、政府の現行エネルギー基本計画の白紙撤廃、
原子力安全・保安院の経産省からの分離等々現行原発政策の抜本的転換をぶちあげたからたまらない。蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
議院内閣制をとる以上首相以下閣僚は内閣として一体だ。
首相といえども閣議を通っていないことは軽々しくしゃべられては困る。
首相は企業・国民の協力で今夏の電力不足は乗り切ると大見得を切った。
しかし特定地域の大口需要者には既に経済産業省所管の政令によって今夏週日昨年の使用実績の一五%以内の減少におさめないと罰金を課すこともあるとの通知が届いている。節電効果は別に首相の手柄ではない。
首相がもうひとつ学ばなければならないのは党内各派から有能な閣僚を偏りなく登用することだ。五五年体制下において自民党の派閥政治は弊害も多かったがどの内閣も各主要派閥から閣僚を選任することだけは忘れなかった。政権を維持するには少なくとも全派閥の支持が必要だったからだ。
菅内閣以降民主党は小沢追出しに狂奔し、参院選で消費税増税を主張して惨敗、結果として衆参ねじれを自ら招くという愚を犯した。
首相を長とする東日本大震災復興対策本部の基本方針の決定も最終段階だ。
しかしその中味は復興に要する財源が中心で消費税はもっぱら社会保障費に充当、復興財源は所得税及び法人税の増税で捻出するという。
実務経験豊かな財政当局出身の政治家、経済学者の中にも財政出動の必要性を説く人は少なくない。
まず国債発行によって復興事業を発足させ、その経済効果を計りながら日本経済の構造的発展に繋ぐのが筋ではないか。
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