停滞する議会政治とポピュリズム
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
現代の議会制民主主義が、二つの挑戦を受けているといわれる。
一つは、政治参加の衰退である。
多くの人々が政治に参加しないことで、政権の成立、政権が作る政策の正当性が失われている。
アメリカの大統領は、有権者の五〇%程度の投票率で、さらにその半数程度の支持を確保すれば当選する。
全有権者の二五%程度、そこに選挙制度の歪みが加わるから、実質的には二〇%程度の支持で誕生することになる。
このような状況で誕生する大統領に、どれだけの正当性があるのか。それは、他の国の政権でも同じである。
多数者の支持を前提にしていた近代民主主義の前提を、現代民主主義は実現できないのである。
これを、「民主主義の赤字」と称している。
問題はこれにとどまらない。
欧米の民主主義諸国はたまた途上国を問わず、議会制民主主義が、ポピュリスト運動、ポピュリスト政党、ポピュリスト政治家の挑戦にさらされているのである。
事例は、オーストリアのハイダー、フランスのル・ペン、イタリーのベルルスコーニなど、枚挙にいとまがない。
それらは、税や財政、福祉、移民などの問題を攻撃しながら、体制側の政治家や政党に、「市井の人々」を対置させて、既成政党による政治を批判する。
さらにまた、包括的に体系的な政治イデオロギーや政策を展開することなく、特定の問題だけを取り上げて批判し、
自分たちが一気に問題解決をはかることができると訴える。
加えて、代議制民主主義が、「市井の人々」の「真」の利益、価値、意見に配慮しない「体制側の」政治エリートや官僚によって支配されていることを強調する。
しかし、それの主張によって支持を確保して成立した政権の多くが、権威主義的で民主主義の政治慣行を否定する。
わが国にもそれに似た現象が、中央・地方の政治を問わず散見する。
とりわけ政治の停滞が、ポピュリスト的運動や政治を出現させる可能性を増大させている。
それらは、政治の閉塞や不安を巧みに利用するからである。
ポピュリスト政治の本質をしっかりと見極めなければならない時期にある。
扇動的な訴えに安易に身を委ねず、長期的視点に立った熟慮する政治が望まれているのである。
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