電力改革の針路は正しいか?
谷口 洋志
中央大学経済学部教授、政策研究フォーラム常務理事
猛暑の季節がやってきた。
電力需要増大に対する電力供給不足が懸念される中、総合資源エネルギー調査会総合部会・電力システム改革専門委員会の場で、
既存の電力供給体制を大きく変える電力システム改革が検討中である。
東日本大震災以降、電力会社に対する批判が強まり、従来の十電力会社体制を何としてでも解体せねばならないという雰囲気のもとでの制度改革である。
マスメディアが誘導するb世論aによれば、福島原発だけでなくすべての原発が問題とされ、東京電力だけでなく原発を抱えるすべての電力会社が批判にさらされる。
電力システム改革の基本方針案をみると、「低廉で安定的な電力供給」が「日本再生の課題」であるとしながら、
「安くて手軽な電力の時代」は終わり、エネルギーコストは上昇する見通しだという。ならば「低廉で安定的な電力供給」という目標は一体何なのか。
需要面では、全国民に「電力選択の自由」を保証するため、地域独占を撤廃して小売の全面自由化を実現し、料金規制を撤廃するという。
家電や自動車などの産業と同じく、電力会社間の自由競争によって安くて良質な財が提供されると考えているのだろうか。
しかし、参入規制や料金規制の撤廃は、地域別・ユーザー別の差別価格をもたらし、高コスト・不採算地域でのサービス縮小・撤退を招くであろう。
また、巨大な需要家や多数の需要家が集中する関東・関西・中部地域では活発な自由競争が起きても、それ以外の地域では自由競争は期待できない。
さらに、七月一日からスタートした再生可能エネルギー固定価格買取制度では現行価格(kWhあたり料金)水準を上回る買取価格が設定されている。
高コストでの電力買取を特定企業に義務づけながら、自由競争を強いる体制は矛盾そのものでないか。
電力供給不足や電力コスト増大への対応を課題とするなら、特定の季節・曜日・時間帯に発生する最大需要を抑制し、
可能な限り需要の平準化(負荷平準化)を図るために、ピークロード料金制を早期に導入・実現するべきだ。
それをやらずに電力供給体制を根本から変える制度改革を先に進めれば、電力供給の不安定が生じ、産業・雇用の空洞化を加速するだけだ。
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