見せかけ見抜き、クールな投票を
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
参議院選挙が間近です。自民党は、好調な世論を背景に議席増と「衆参ねじれ」の解消をめざします。
それが実現されたなら、日本政治の様子は大きく変わるでしょう。
安倍政権誕生後、アベノミクスの掛け声のもと、大きく政治が進展したように見えますが、政治や経済の実質はほとんど変わりがありません。
経済が上向いたと言われますが、人々の実感からは遠いものがあります。
株価は乱高下を繰り返して落ち着きを見せず、安定成長につながるかどうかも定かではありません。
円安は輸出中心の企業の業績を回復させましたが、輸入の原材料に依存する企業の業績は悪化するばかりです。
エネルギー政策についても、何も問題は解決していません。TPPの交渉も端緒についただけで、どのような決着に至るかも不明なままです。
それは外交や安全保障にも及びます。沖縄の基地問題にどれだけの進展があったでしょうか。
北方領土を中心とした日ロ関係についても、成果があったわけではありません。
尖閣をめぐる日中関係、竹島をめぐる日韓関係、核や拉致問題をめぐる北朝鮮関係も同様です。
すべてが解決を見ずに、先送りされています。
内政も同様です。
憲法改正の突破口として喧伝されていた「九六条改正」も、公明党の反対と自民党内部の反対意見に直面して、
参議院選挙の争点にしないことがあっさりと決められてしまいました。
要するに、政権交代以降、政治は停滞しているのです。
安倍政治が行っていたことは、政権交代にともなう好調な世論を維持するために、党内外に対立を生まないだけの「守りの政治」です。
参議院選挙で「ねじれ」が解消されたら、これらの政治が大きく変わります。
政権基盤が安定した時、安倍政権の本音の政治がはじまります。政治が動き出します。
参議院選挙は、転換点なのです。
有権者に求められることは何でしょう。
安倍政治の本質を見極めることです。
掲げる経済政策がいかなる結果をもたらすのかの冷静な分析。憲法改正の良し悪しではなく、改正の中身についての詳細な精査。
安全保障政策についての現実的な判断。
「安倍政治が、日本にとって望ましいか」を、冷静に問いかけるクールな思考と行動が、今こそ求められます。
「クール・ジャパン」は、日本の国家ブランド戦略や経済戦略だけではないのです。 |