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月刊誌「改革者」2014年2月号
「改革者」2014年2月号 目次
 

羅 針 盤(2月号)

                   新自由主義の蒸し返しで問題は解決しない

                             谷藤 悦史
                 早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長


  安倍首相の高揚感が極まっている。 一月の年頭記者会見で、日本経済が「順調な回復軌道を歩んでいる」との認識を披瀝、新たに招集される国会を「好循環実現国会」と位置づけた。 安倍首相の言葉に実体が伴わない。 アベノミクスの三本の矢の一つである「成長戦略」を実現するとされた先の国会も、具体的な戦略を明示することなく終わった。 今国会も、大きな成果もなく終わりそうである。 安倍政治の特質は、政権に都合の良い事実を羅列して提示し期待感を掻き立てる一方で、まったく異なる政治的現実を実現することである。 「好循環」とはどんなものであろうか。 収益を増加させた企業が設備投資を拡大し、社員の給与を上げる。 給与増となった消費者が消費を拡大して、企業収益をさらに拡大させる。本当にそうなるのであろうか。 共同通信が一月に発表した主要一〇四社のアンケートでは、賃金を「上げる」とした企業はわずか一八社、一七%に過ぎない。 ベアを明言したのはゼロである。 多くの労働者は、春闘で厳しい交渉を迫られている。 消費税増と一体で改革するとされた社会保障改革も、暗雲が漂っている。 社会保障給付の減額が進み、負担増が迫りつつある。 厚生年金、国民年金は昨年秋に減額されたが、四月にさらに減額される。 他方で、両年金の保険料は引き上げられる。 七〇歳から七四歳の医療費の自己負担が一割から二割になってしまう。 社会保障における「自助」努力の流れが鮮明になり、それが継続される。 これで長的にわたって消費が伸長し、内需が拡大するのか。 安倍政治は、大きな改革を実行しているように見えるが、 実のところ、全てが市場や企業そして個人任せなのである。新自由主義の再現に過ぎない。 そのアプローチが市場の混乱と崩壊など大きな失敗をもたらしたのは、近年の歴史が教えるところである。 「公助」のあり方を真剣に議論することなく、解決を「自助」だけに委ねても問題は解決しない。 それを踏まえて私たちは、「公助」や「自助」に加えて「共助」が不可欠であることを繰り返し提起したのではないか。 「連帯」の価値の提起に他ならない。 高い能力を備えた人々を育て、そうした人々の連帯を作り、企業や地域に拡大して、企業の発展や地域の再生につなげる。 安倍政治に最も欠けているものは、人的資源の開発と「共助」の思想である。
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