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月刊誌「改革者」2014年5月号
「改革者」2014年5月号 目次
 

羅 針 盤(5月号)

                   ポスト近代の再編期を自覚した政治を

                              谷藤 悦史
                 早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長


 制度作りは難しい。原理・原則に基づいて正しい手続きを経て制度が設計されても、それに関わり利用する人々の支持がなければ、有効に作動しない。 そればかりか、作られた当初は有効に機能していても、時が経て制度を取り巻く外的な条件が変化すると有効性が失われてしまう。 時には、制度が人間や社会の発展を阻害することすらある。 人の生がそうであるように、制度も永遠ではないのである。 時代が提起する課題や条件に応じて、絶えず検証して見直しを行わなければならない。 それこそが政治的営みである。歴史が教えるところでもある。 二十世紀を通じて作られた国内外の多くの制度が、疲労状態にある。 国連を中心とした安全保障体制、欧米を中心につくられた通商、通貨、金融体制も揺らぎつつある。 国内も例に漏れない。戦後の政治体制の構築に係った多くの制度が、有効性を失いつつある。 日本国憲法もその一つであろう。 近代社会の自由民主主義原理を再現している日本国憲法は、現代の社会状況を適切に統制できない状況にあるように思える。 近代自由主義憲法は、近代自由主義経済を支えるものとして登場した。 二十世紀につくられた憲法は、近代自由主義経済の失敗を前提に、福祉国家を形成するために作られた。 憲法は権力を縛るものという論理が展開される。極めて一元的な解釈である。 憲法はどのような社会を支え作り上げるかを前提に、構築されるものでもあるのだ。 社会の変化を前提に作り変えられなければ空文化し、制度の意味をなくしてしまう。 憲法に発する多くの下位法も同様である。 グローバル経済にともなう通商や金融のあり方が変わる中で、経済に係る法の改正が遅れている。 メディアや情報環境が変わる中で、情報そのものや情報の利用や流通に係る法の整備も遅れたままである。 社会保障制度は言わずもがなである。 政治は、二十世紀制度の修正ないし再創造に向かわなければならない。 政治がその試みに挑戦して成果をもたらさなければ、問題が先送りされ深刻化し、人々の不安を再生産させる。 政治に対する人々の信頼も失われる。 その時、問題の原因を単純化し、空想的な解決策を提示して人々の期待を掻き立てるポピュリズムの政治が広がり、政治が漂流して停滞し、 他方で民主主義を否定する運動を活性化させる。 歴史の流れを的確にとらえ、確かな改革を進める真摯な政治的試みが、今こそ求められる。
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