崩壊する中流社会の再創造を
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
二十一世紀は、中進国と開発途上国が主導するという。それらの国々の中産階級の成長が、世界経済の行方を左右するからである。
経済の中心は、アメリカや西欧から、アジア、南米、アフリカへとシフトするのだろうか。
それは他方で、先進国の黄昏を意味するのか。それを示すような指標が、わが国おいても散見するようになった。
安倍政権の明確な成長戦略が見えない中で、デフレからの脱却と景気の回復が指摘されている。
有効求人倍率も改善し、二〇一三年には四%台であった完全失業率も、今年の四月には三・六%、二五四万人になった。
消費税増税で冷え込んだ消費者心理も回復しつつあるという。
しかしながら、長期的な視点でとらえると、そうした心理を逆なでする現実が次々と浮かび上がる。
世帯の収入は一九九九年を境に減少に転じ、社会保障費や税などの非消費費が増大する中で、可処分所得が減ることになった。
二〇一二年で三八・四万円である。
所得が伸びない中で、貧困世帯も上昇した。
二〇〇九年の段階で、貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は一一二万、それを下回る貧困率は一六・〇%となり、先進諸国でも高い割合となっている。
これに伴い子どもの貧困率も上昇し、一五・七%となっている。
経済的理由から就学援助を受ける小・中学生も増加、二〇一〇年には一五五万人、一五・三%である。
「貧困の連鎖」をどう断ち切るかが、先進国共通の課題となっているが、わが国も対応が迫られている。
人口の高齢化が主な原因と言われるが、生活保護受給世帯も一六〇万を超えるまでに上昇、受給者も二一七万人である。
これら全てが、格差の増大につながる。
いわゆる格差を示すジニ係数も二〇一一年には過去最大になった。もちろんこれは、社会保障費などの再配分で補正されるが、高止まりになっている。
内閣府の世論調査では、日本人の中流意識は相変わらず高い状況にあるが、生活実態としての中流は崩壊の兆しだ。
実体としての中流の生活を支え育成する経済政策、社会保障政策の展開と実施が、喫緊の課題である。
「貧困の連鎖」を断ち切り、子どもたちに確かな人生の出発をさせるための社会保障が、今こそ必要ではないか。
出生率の目標を設定するより、格差を是正し、「貧困の連鎖」を断ち切る環境の整備を先行させるべきであろう。
それは、二十一世紀における新しい中流階級の再創造に他ならない。
|