アベノミクスの終焉:変調をきたす日本経済
谷藤 悦史
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早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
アベノミクスが、空虚なものであったことが明らかになりつつある。経済指標が変調をきたし、軒並み悪化している。
経済産業省が、七月三十日に明らかにした鉱工業生産指数の速報値は前月比で三・三%の低下、東日本大震災があった一一年三月以来の大きな低下幅である。
四〜六月期の四半期ベースの指数も三・七%減の九八・七、四半期ベースのマイナスは六期ぶりである。
内閣府が八月半ばに出す予定の四〜六月期の実質国内総生産の速報値についても、七期ぶりの四半期マイナスになるという予想が広がっている。
確かに、六月の有効求人倍率は一・〇一と、前月から〇・〇一ポイント改善、十九カ月連続である。
しかしである。完全失業率は、三・七%と〇・二ポイント悪化した。また、正規社員の有効求人倍率も改善しつつあるが、〇・六八に留まっている。
非正規労働者の割合が三六・八%と上昇していることを考えると、非正規の雇用者増で、有効求人倍率が改善していることがわかる。
安定的な雇用が、広がっているとは言えない。そのことが、家計に表れる。
総務省が七月末に発表した勤労者世帯の実収入は一世帯当たり七一万三七五円、実質ベースで前年同月比六・六%減であった。
税金を引いた可処分所得でみると八・〇%減となり、〇三年三月以来の大幅減である。
この傾向は、他の統計にも表れる。
厚生労働省が七月末に明らかにした勤労統計調査では、基本給にボーナスや残業代を含んだ現金給与総額は四三万七三六二円で、前年比〇・四%増となっている。
しかし、物価の上昇を加味した実質賃金指数は、前年比三・八%減なのである。
消費税の増税を含めて急激な物価の上昇に、収入が追いついていない。
七月で底を打って今後は回復するという見方がマスコミをにぎわせているが、この可処分所得の状況をみれば、期待薄であろう。
公共事業で作り出した非正規の雇用増も、経済そのものの回復がない限り長くは続かない。水ぶくれの予算を作り出し、財政悪化を作り出すだけだ。
安倍政権の一丁目一番地とされた経済の実体がこれである。
平成版「富国強兵」が、「富国」無き「強兵」に向かいつつある。人々がそれに気がついた時、政権を離れることになろう。
小手先の内閣改造で乗り切れる状況ではない。今年の後半期は、転機となるであろう。
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