空疎な所信表明に安倍政治の限界を見る
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谷藤 悦史
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早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
九月二十九日、臨時国会が召集され、安倍首相の所信表明演説が行われた。
先に発足した改造内閣に期待もしぼんだが、所信表明演説にはさらにがっかりすることになった。
内容が空疎で、できの悪い学生の作文を朗読しているようであった。
いつものように、国民の議論を二分するような問題は、一つも取り上げない。
誰もが反対しない問題だけを取り上げて語るだけである。
「災害に強い国づくり」、「地方創生」、「女性が輝く社会」、「地域と世界の平和と安定に貢献」などなど、誰も反対しないであろう。
それぞれの目標に、具体的にどのような対策と施策を実行するかが問われているのに、それについてはほとんど触れていない。
「地方創生」が臨時国会の目標とされているのに、そのための政策展開がなく、地方振興のエピソードだけが紹介されている。
自身の行動が問われているのに、他者の事例を示すだけである。あなたは何をしたと言うの。
取り上げられる数値や事例にも偏りが見られる。
成長戦略に関わる肯定的な数値や事例だけが紹介され、失敗を示す数値や事例は触れられない。
成功例を提示されても、実態はそれと程遠いだけだから、国民はしらけてしまう。
首相は現実を直視していないのではないかという、疑念だけがわいてくる。
首相がねらう「保守の政治」は、一言も触れてない。
「言っていること」と「行っていること」の乖離も著しい。
美しい言葉が満載であるが、通俗的で貧困、心を打たない。力を込めて演説するものの、一人芝居のようで、まったく印象に残らない。
安倍政治は、裏付けのない「言葉」ではなく、実際の「行動」であるという。
「成長戦略を確実に実行し、経済の好循環を確実なものにする」と述べるが、成長戦略は「確実に実行」されているのか、経済の「好循環」はもたらされたのか。
冷徹な分析と課題認識が必要であろう。実際の「行動」が無く、裏付けのない「言葉」が羅列している。
自らの語りとは正反対の政治が進行しているのである。そろそろ、安倍政治の結果責任が問われてもよい時であろう。
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