自由・公正・連帯の再確認を
谷口 洋志
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中央大学経済学部教授、政策研究フォーラム常務理事
政策研究フォーラムが掲げる基本的理念である「自由・公正・連帯」の意義を改めて認識すべき事態が生じている。
米国では北朝鮮指導者の暗殺を題材にした映画の配給があり(しかも日系企業により)、フランスではイスラム教の予言者を題材にした風刺画が週刊誌に掲載された。
後者のケースは、多数の犠牲者を生む襲撃テロ事件を誘発した。
自分たちの嫌いなものを批判する「自由」があることは否定しないが、「表現の自由」を言い訳に何を表現しても構わない「自由」があるとは思えない。
自由社会と言えども、「自由の限界」があるはずだ。
ISIS(ISIL)による残虐な日本人人質事件に関連して、テレビ放送や全国紙では今なお「イスラム国」という呼称を毎日連呼、連発する。
紙面・誌面や画面上ではカッコ付きで表示されるが、テレビ・ラジオ放送ではカッコ付きというニュアンスが伝えられず、
まるで米国・中国・韓国と同じような「国」扱いである。
日本政府や米国政府が慎重にもISILと呼び、日本国内のイスラム教団体やイスラム教徒が「イスラム国」の名称を使用しないように要請しているにもかかわらず、
である。
日本人人質殺害に対して、一月二十四日と三十一日にオバマ大統領が、「テロリストグループISILによる凶悪な殺人を非難する」声明を出したとき、
日経新聞は「イスラム国を強く非難する声明」と書き、朝日新聞は「『イスラム国』の凶悪な殺人を非難する」声明と紹介した。
イスラム教スンニ派過激組織という枕詞を付ける新聞もあるが、そうした対応だけで十分か。
国際社会から国家と認知されておらず、
イスラム教スンニ派最高権威機関からも激しく非難されているテロ組織やその支配下地域を「国」と呼称し続ける日本のマスメディアは、
「公正・連帯」の名において弾劾されるべきだ。
凶悪な「テロ集団」(オバマ大統領が非難声明で用いた表現)のことを、イスラム世界を代表するような国の表記で書いたり叫んだりすることは、
すぐにやめるべきだ。
もし、ある犯罪者集団やテロ集団が「日本国」という名称を使って残虐な行為を続けたとしたら、
テレビや新聞は「残虐なテロ行為を行った日本国」と書いたり叫んだりするのだろうか。
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