住民投票が遺したもの
岩渕 美克
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日本大学法学部教授、政策研究フォーラム常務理事
大阪都構想をめぐる住民投票は、一万票余りの差で否決された。
この結果、責任を感じた橋下徹大阪市長は、政界からの引退を表明することになった。
投票率は六六%と、過去の大阪市長選の投票率を大きく上回り、住民の関心の高さを感じさせられる結果であった。
白黒がはっきりする住民投票は結果がわかりやすく、また維新対その他の既成政党という対立の構図によって双方の選挙宣伝は激化した。
この投票率の高さは、地方選挙としては異例のもので、対立する争点が明確になっていればまだまだ有権者の関心を掘り起こすことが出来ることも証明した形となった。
出口調査などから投票行動を詳しく見ると、七〇歳代の有権者の年代だけで反対票が賛成票を上回り、今更ながら高齢者の政治関心の高さがうかがわれることにもなった。
高齢者は、一般に、現在の生活に大きな不満さえなければ、現在の生活が大きく変わることを好まないため、こうした結果になることは十分予想がつくことであった。
その意味では、予想の範囲内であったが、その代償は小さくない。
求心力の強い橋下氏を失った維新の会の今後は不透明感が強く、政界再編にも大きな影響を与えることになるだろう。
しかしながら一方で、安倍首相からのエールに応えるなどの動きも見過ごすことはできない。
なにせ、二〇〇〇%ない大阪府知事選に出馬した過去があるからだ。
政界からのラブコールは強まるばかりだが、その行方も見守らなくてはならない。
また、この住民投票の結果で、住民投票そのものの難しさも露呈することになった。
反対派の主張の方が、分かりやすく聞こえることもその要因であろう。
元来保守的な日本人、前述したような高齢者の方は、改変を好まない傾向にあることも改憲派には大きな衝撃であったろう。
法的拘束力のない住民投票ならまだしも、法的拘束力のある憲法改正の国民投票においては、改正反対の結果が出れば改正案は否決されることになるからだ。
憲法改正が悲願である安倍首相にとっても驚きの結果であったことは間違いない。
この大阪都構想をめぐる住民投票の結果が安倍政権にとって意味するところは、決して小さいものではなかったようだ。
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