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月刊誌「改革者」2015年9月号
「改革者」2015年9月号 目次
 

羅 針 盤9月号

                    単線志向は日本政治を劣化させる?

              谷藤 悦史 ● 早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長


 集団安全保障法案の衆議院通過を受けて、安倍政権に対する支持率が急速に低下、世論の流れが大きく変わった。 安倍政権は、新国立競技場の見直し、最低賃金の引き上げなどに、あからさまに「介入」して政治実績を誇ったが、世論の流れは変わらない。 「取り繕い」をめざす政治戦略が見え見えで、安倍政権の本音の政治でないことが見透かされているから、人々の心に響かないのである。 集団安全保障法案の問題は、戦後の安全保障政策を根本的に変えることであるから、慎重に熟慮を重ね、人々からの広い合意を確保する形で実行すべきであろう。 ここで指摘したいことは、日本政治が直面する政治課題は安全保障の問題にとどまらないことである。 安倍政権は、集団安全保障法案以外の政治課題については、参議院の選挙制度改革、TPP問題などを筆頭に、根本的な問題解決もなしに拙速に進めている。 これらの問題には、興味がないかのようにさえ見える。 合区による「格差三倍以内」は、当面の違憲状態を回避するだけのものであり、根本的な改革の議論はほとんどない。 TPPの議論も同様である。 日本の将来の産業や経済に大きな影響を与えるにもかかわらず、各国との数字合わせの作業に終始している。 将来の日本の産業をどのように構想するかの議論が、TPP議論の背景になければならないのに、その議論も展開されない。 さらにまた、これまで提起されてきた政策や政治についても停滞や変化が見られる。成長戦略の要である「地方創生」が典型である。 八月になって、来年度予算の概算要求に関わる作業が進展しているが、石破地方創生相は、七月末の全国知事会で、 地方創生を後押しする新交付金に一〇〇〇億円を要求することを表明した。 一四年度の地方創生先行型交付金一七〇〇億円を下回る。 地方創生に関わる総合戦略の作成を地方に委ね、交付金は大きく抑制する。要するに、安倍政権の地方創生は、「掛け声だけで、実を入れず」ということなのだろう。 こうして、日本政治のさまざまな問題が解決されずに先送りされ劣化する。安倍政権は末期的である。 秋の総裁選で再任されたとしても、長期政権の見通しは暗い。
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